「キン肉マン」の人気が今なお衰えない理由 矛盾だらけでも人を熱くさせる物語がある

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しかし、われわれファンは決して、そういった設定の矛盾や強引な展開に不満を持っているわけではない。むしろ、そういう部分こそがこの作品の魅力であると感じているのだ。

漫画の世界でも、最近は設定がやけに細かく作り込まれているものが目立つ。作者が頭の中で架空の世界を作り上げて、その世界のルールや常識や登場人物などをあらかじめ隅々まで決めているような作品が増えてきているのだ。この手の漫画では、読者の目に見えるような形であからさまな矛盾が生じたり、ストーリーが破綻したりすることはない。

箱庭的な漫画が増えている背景にあるもの

そういう箱庭的な漫画が増えている背景には、インターネットの普及があるのではないか。SNSなどで誰もが気軽に意見を言える時代になってしまったため、作品を作る側はどうしても、批判されることを想定して、先回りして突っ込まれるすきをなくそうとしてしまう。作り手が矛盾を指摘されることに敏感になりすぎているのだ。

だが、「キン肉マン」は矛盾を恐れていない。そもそもつじつまを合わせるという作業に作者が何のこだわりも持っていないように見受けられる。ページをめくるたびに矛盾点が次々とわいて出てくるような感覚だ。

ただ、そんな「キン肉マン」には、読者を力ずくでグイグイ引き込んでしまうような圧倒的な熱量がある。細かい矛盾を気にする暇もないほど、ストーリーはどんどん進んでいき、熱いバトルが次々に展開されていく。

作中に登場するキン肉マンの決めぜりふに「へのつっぱりはいらんですよ」というのがある。30年以上もこの作品を読んでいる私にも、このフレーズの意味はよくわからない。ただ、これを口にするとき、キン肉マンはなぜか妙に自信満々なのだ。そして、言葉の意味は不明だが、そのみなぎる自信だけははっきりと伝わってくる。

このフレーズは「キン肉マン」という作品そのものを象徴しているとも言えるのではないか。細かい意味はよくわからないのだが、気持ちだけは伝わってくる。それがこの漫画の本質だ。どんなにストーリーが行き当たりばったりで、細かい設定が矛盾だらけでも、人の心を動かす物語を作ることは十分可能なのだ。

かつて「キン肉マン」を愛読していた主な読者層は、現在30~40代の男性だが、最近は女性やそれ以外の世代にも支持層は広がってきているという。今「キン肉マン」のリバイバルブームが起こっている理由は、この漫画が人を熱くさせる作品だからだ。まだ読んだことがない人がいたら、この機会にぜひ。「へのつっぱりはいらんですよ」と自信を持って推薦したい。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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