映画製作者が語る、香港の未来に募る危機感 中国本土で上映禁止になった香港映画「十年」
――香港アカデミー賞(香港電影金像奨)を受賞した。
伍:香港映画界は中国本土の影響もあってテーマに制約があり、創作の自由が狭められている。それでも受賞できたのは、香港映画界の人々が創作の自由を守ることを支持した結果だと思う。本作が受賞したことで、本来、映画は自由に作るべきものだということに気づいたのではないか。
蔡:映画に多くの人が共鳴してくれた。上映後に銅鑼湾書店で連れ去り事件が発生し、この映画が未来を予見していたと評判にもなった。映画の中の話の出来事が現実に起きたので、『十年』というタイトルを『今年』にしたほうがよいという感想もあった。
――本作は香港映画では扱いづらいテーマだと思う。撮影に当たって難しいと感じた部分はどこか。
伍:資金集めも厳しかったが、それ以上に明日のことすらわからないのに、10年後を想像することが非常に難しかった。きちんとしたロジックをもって10年後を考えなければならなかった。
蔡:第4話「焼身自殺者」の監督は題材が非常にナーバスなことに苦戦していた。仲のよい俳優が出演を快諾してくれたのに、脚本を読んで態度が一変したと話していた。この作品に出演したら中国(本土)に入れなくなり、今後の仕事に悪影響が出ると。でもその俳優は出演を断った後、監督に共産党の悪口を長い時間にわたって話し続けたようだ。
「文化大革命と似てきている」
――7月22日に日本でも公開された。香港のみならず、海外でも反響を呼んでいる。
伍:日本で『十年』が公開されることに大変興奮している。僕自身、日本のカルチャーにかなり影響を受けてきた。『十年』は低予算で作った作品で、商業的なことに関しては考えていなかった。国外で公開するという発想もなかった。海外の配給会社が本作を配給してくれるのは、自分たちへの応援だと受け止めている。この映画をみて、日本の観客も自国の将来について、そして自由や人権をいかに守るかについて考えてほしい。
――伍監督がメガホンを取った「地元産の卵」は、少年団が主人公が営む商店に対して「地元産の卵」の「地元産」という言葉が「良くない言葉リスト」の1つに当たるとし、文句を言うシーンがある。文化大革命を彷彿とさせるような光景が印象的だ。
伍:この作品の大きなテーマの1つが政治だ。いま政治が生活にどう影響しているのかを考えたとき、自由だったものが徐々に悪化していると感じる。非常に危険なことで、中国でいちばんひどかった文化大革命の時代に似てきている。政治は過去の歴史から何も学んでいないのではないか。だから今回の作品で(当時の紅衛兵のように)洗脳された子供を使ってみせた。子供を使うことで、身近に起きている政治の変化が過去(文化大革命)と同じ変化になっていることを表現した。
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