「ことりっぷ」が切り開く旅行誌の新たな活路 独自の世界観に引かれたコミュニティが武器

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「読者のみなさんがアプリですてきなスポットを投稿してくれる時代だからこそ、編集者としてまだSNSに載っていないものを見つけて発信していきたい」(菊本氏)という考えだ。こうした真っ当な編集スタイルを保てるのも、タイアップやコラボによって別方向からの収入を得られているからだろう。

「ことりっぷウェブの月間PVは約1000万、ユニークユーザー数は約100万。数字の面では大手のキュレーションメディアに負けますが、戦いようはあると思っています」と、デジタルメディアグループことりっぷ担当・平山高敏氏は話す。

「たとえばクライアントから何かのPRを頼まれたとして、ことりっぷなら記事で発信するだけでなく、モニターツアーを開催したり、参加者や読者にアンケートを取ったりすることも可能です。『情報を拡散すること』『つながりを拡散すること』そして『声を拾うこと』が同時にできるんです。大事なのはPVそのものではなく、読者の心がどう動いたか、どんな行動に結びついたか。それを丁寧に拾うことで、PVとは違った指標で価値を提案していけると考えています」

「良質なコミュニティ」をどう生かすか

ただし、ことりっぷを軸に新たな展開を試みる昭文社だが、直近の決算内容は厳しいものだった。2017年3月期の売上高は103億円と前年比約20%落ち込んだうえ、営業損益22億円を計上した(前期は3億円の黒字)。ガイドブック事業だけ見ても、売上高は約8億円と前年から34%減っている。

こうした中、今後はことりっぷが有する「良質なコミュニティ」をいかに有効活用するかが、事業回復のカギを握ることになるだろう。とはいえ、ことりっぷの「世界観」に引かれて集まってきている人たちを利用してむやみにマネタイズに走ることになれば、それこそ大事なコミュニティを壊しかねない。

ことりっぷという唯一無二の世界観を維持しながら、いかに収益を拡大していくか。ガイドブック業界で「女子旅」というそれまでになかったジャンルを確立し、新たな旅需要を開拓し続けていることりっぷの今後の展開は、出版社ならずとも気になるはずだ。

飛田 恵美子 フリーランスライター

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ひだえみこ / Emiko Hida

茨城県出身、東京在住。「ソーシャルデザイン」「コミュニティ」「新しい働き方」といった分野で記事を執筆。牡鹿半島でOCICAというアクセサリーを製作する「一般社団法人つむぎや」と一緒に、東北の復興ものづくりを紹介するウェブマガジン「東北マニュファクチュール・ストーリー」を運営。これまでに70以上の団体を紹介している。筆者ウェブサイトはこちら

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