2020年度の財政黒字化目標は「絶望的」なのか 歳出増の幻想におじけづき諦めるべきでない

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さらに、地方(普通会計)の歳出でも、同様の予測と実績の差異が考えられる。今回の中長期試算では、2015年度から2017年度にかけて、地方における普通会計の基礎的財政収支対象経費(歳出合計から公債費を差し引いた額)は、81.7兆円から82.4兆円へと、2年間で0.7兆円しか増えていない。これに対し、同試算では、2017年度から2020年度にかけて、同じ基礎的財政収支の対象経費は、82.4兆円から88.2兆円へと、3年間で5.8兆円も増加する予測となっている。

もしこれを、2015年度から2017年度にかけての増加と同じペースでコントロールできれば、2020年度は予測値の88.2兆円でなく、83.5兆円となる。5.8兆円の増加を約1.1兆円の増加に抑えられ、4.7兆円の基礎的財政収支の改善に貢献する。これまた、この歳出抑制は決して過酷な削減ではなく、今までと同程度の努力で実現が可能なものだ。

今回織り込まれていない改善要因

そのうえ、今回の中長期試算には含まれていないが、財源確保の検討が行われている案件がある。それは消費税の「軽減税率」制度の実施に伴う、減収分の一部だ。すでに決まっていることとして、社会保障制度における総合合算制度の見送りによって確保する恒久財源は、中長期試算でも織り込まれている。しかし、残された財源0.6兆円は、未確保である。

この0.6兆円の財源は、今回の中長期試算では織り込まれておらず、そのまま基礎的財政収支の悪化要因としてカウントされている。ただ、0.6兆円分の財源は、2018年度までに法制上の措置を講じることになっており、政府としてかなり重い意思決定事項だ。この0.6兆円の財源が確保されれば、基礎的財政収支の改善につながる。

国の一般会計の社会保障費と、地方の基礎的財政収支の対象経費で、無理のない歳出抑制と、軽減税率制度の実施による減収の未対応分の財源確保が、上記のようにできれば、合計して7.1兆円の基礎的財政収支の改善が図れることになる。前述した2020年度の基礎的財政収支赤字8.2兆円のほとんどは、これだけでも解消可能。残る1兆円強は、さらなる歳出改革などが実現できれば、今回の試算結果を受けてもなお、2020年度の基礎的財政収支黒字化は可能なのだ。

内閣府の中長期試算で示された歳出増の幻想におじけづき、財政健全化目標の実現をあきらめるべきではない。低くはないが高くもない、このハードルを乗り越える方策について、さらに検討することが求められる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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