他方、地方の基礎的財政収支は、前回試算と比べ、0.6兆円の収支改善が見込まれている。したがって、これらをすべて合わせると、2020年度の基礎的財政収支は、前回試算よりも国は0.4兆円の収支悪化、地方は0.6兆円の収支改善で、国と地方を合わせた基礎的財政収支は、0.1兆円の収支改善(誤差あり)となった。
こうみると、前回と今回の試算結果の差として大きいのは、国の一般会計といえそうだ。特に、国の一般会計の「その他収入」が0.8兆円の収支悪化(赤字拡大)要因となっている点は、見逃せない。その他収入には日本銀行が国債から得る利子収入等を国庫に納付する日銀納付金も含まれる。現在も行われている国債の大量購入は、ますます低金利で大量購入を強いられるうえ、内閣府の中長期試算で見込まれる2020年度に向けた、金利上昇などが作用していると考えられる。日銀の質的量的緩和の”出口”政策における財政への影響は、2020年度の基礎的財政収支の赤字拡大の一因といったところにも出ているといえそうだ。
このように今回の中長期試算でも、2020年度の基礎的財政収支は8.2兆円も赤字が残るということから、政府部内では早くも、この財政収支目標の達成年次の後ろ倒しを検討する動きがある、との報道があった。これは、当連載でも「消費増税『3度目延期』の布石は打たれたか」で、その背景は記したが、あたかも財政出動を待望する与党内の動きを”忖度(そんたく)”するような報道だ。これから2018年度予算編成の端緒となる概算要求が始まる季節だが、2018年度予算編成までは「経済・財政再生計画」に基づいて、(消費増税は行わないものの)歳出の効率化を中心に改革に取り組むこととなっていて、財政健全化目標の達成年次を後ろ倒しにすると決める必然性は、今の季節にはない。
しかも、8.2兆円の赤字という額におののいて、早くもあきらめなければならないのだろうか。その赤字額を冷静に精査する必要がある。
過去、歳出はそれほど増えていなかった
過去の中長期試算を振り返ると、特に歳出の予測は高めに出ていて、実績値でみれば、改革努力の成果もあり、予測ほどには歳出は増えていなかった。前掲した今回の中長期試算と合わせて示された実績値では、2015年度から2017年度にかけて、国の一般会計の社会保障関係費は31.4兆円から32.5兆円へと、2年間で1.1兆円しか増えていない。これに対し、同試算で2017年度から2020年度にかけて、同じ社会保障関係費は32.5兆円から35.8兆円へと、3年間で3.3兆円も増加する予測となっている。
2015年度から2017年度にかけての社会保障関係費の増加は、現在の財政健全化の方針を定めている経済・財政再生計画に沿った、「3年間で1.5兆円の増加」のペースに従ったものであるといってよい。もし、国の一般会計の社会保障関係費を、2017年度から2020年度にかけてもこのペースでコントロールできれば、2020年度は予測値の35.8兆円でなく、34.0兆円となる。3.3兆円の増加を1.5兆円の増加に抑えられ、1.8兆円の基礎的財政収支の改善に貢献する。
この歳出抑制は、決して無慈悲で過酷な削減ではない。2015年度から2017年度にかけて取り組んだ改革努力と同程度の努力で実現が可能なものだ。経済財政諮問会議では改革のさらなる深掘りすら求めている。
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