ヲタクの楽園「ニコ動」に立ちはだかる壁--収益化に苦しむ超人気動画共有サイト
それはまさしく異様な熱気だった。7月初旬、都内で行われた無料動画サイト「ニコニコ動画」の新バージョン発表イベント。2000人のユーザーがホールを埋め尽くした。圧倒的多数が若い男女で、コスプレ姿で盛り上がる客も。ゲストがジョークを繰り出すたびに大声で笑ったり手をたたいたりと、ホール内は独特の空気に満ち満ちていた。
司会者として壇上に立ったのは、iモードの生みの親として有名な夏野剛氏。6月にNTTドコモを退社し、ニコニコ動画の母体である携帯電話向けコンテンツ開発大手・ドワンゴの常勤顧問に就任したばかり。「ニコニコ動画以外に、世界で勝負できる日本のコンテンツはありません!」。夏野氏は転身した意気込みを会場のファンに向けて叫んだ。
人気アイドルユニット 「Perfume」がブレーク
ニコニコ動画はいわゆる動画共有サイトの一つだ。ユーザーが動画をネット上にアップロードし、他のユーザーがそれを閲覧できる。ただ、米国の「YouTube」などの動画共有サイトと大きく違うのは、投稿された動画に他のユーザーがコメントを書き込み、リアルタイムで画像上に表示する機能があることだ。さながら、動画を見ながらユーザー同士が実況中継あるいはチャットしているようなイメージである。
投稿される動画はアニメ・ゲームを中心とするポップカルチャー系が多数を占める。好きなアニメの場面を切り張りし、ミュージッククリップ風に再編集した「MAD」と呼ばれる動画や、歌って踊るユーザー自身の姿を写した投稿も多い。
これが今、日本のヲタクを中心とした若者の注目を一身に集めている。サービス開始は2006年12月とつい最近だが、登録会員数はうなぎ上りで、08年7月末で800万人超。
ここを発火点に旬のアイドルも誕生した。テクノポップを歌う3人組ユニット「Perfume」。駆け出しだった彼女らの曲が、ニコニコ動画でMAD用BGMとして使われ出すとたちまちブレーク、アマゾンでアルバム1位に躍り出る。今や「YMO以来のテクノユニット」と呼ばれるほどのブームを巻き起こしている。
インターネット市場調査大手のニールセン・オンラインによれば、ニコニコ動画の6月の月間アクセス数は7・7億回。マイクロソフトが運営するポータル「msn」を上回る総合8位につけている。日本のネット業界では異例の急成長ぶりだ。
平均利用時間の長さも特徴だ。ニコニコ動画の利用者の平均月間滞在時間は2時間18分。競合のYouTubeの2倍近い水準であり、ヤフー、ミクシィに続く第3位だ。ニコニコ動画に入り浸る中毒者を指して「ニコ厨」なる呼称も登場した。
ニコニコ動画がこれほど若者を引き付けた理由を、野村総合研究所情報・通信コンサルティング部の守岡太郎氏と北林謙氏は「動画へのコメント機能を付加したことで、ただ見ていただけの人の参加意識を高めることができた」と分析する。「もともと日本には漫画の同人誌のような2次創作文化が根強い。コメントを通じ投稿動画への反応が活発なニコニコ動画は、同人・アマチュア作品を発表する格好の場になった」。