ヲタクの楽園「ニコ動」に立ちはだかる壁--収益化に苦しむ超人気動画共有サイト

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広告開拓が必須条件 著作権問題の壁

テコ入れ策として、10月にも「仮想通貨システム」を導入する。これは、仮想通貨を購入して各種コンテンツを楽しんでもらうユーザー課金の一種だ。小林社長は「現在1・5億円の月間売り上げが3億円程度まで上がるだろう」と計算する。ただこの計画どおりにいったとしても、損益はギリギリ黒字化程度となるにすぎず、投資回収には程遠い。

「長期的に月収10億円を目指さなければ」と小林社長。「そのためには、広告を収益柱にするモデルが必須。ナショナルクライアントを多く抱える大手の広告代理店と結び付かないと」。

それに対し、電通の峯川卓ビジネス統括局・シニアプロジェクトマネージャーは、「新しいメディアのあり方を予見する動きとして注目している」ものの、広告枠の取引には慎重姿勢。ネックは著作権違反動画の存在だ。電通は、しばしば違反動画の流用元となるテレビ局を最大の得意先としており、スタジオジブリ作品など一部アニメの著作権も保有する。「違法動画の責任をいったい誰が取るのか、そこが動画共有サイト最大の難点。われわれも当然信用の持たれる媒体でないと取り扱うことができない」(峯川氏)。両者を隔てる壁は厚い。

そこでドワンゴは今春、いくつかの著作権対策を発表した。JASRAC(日本音楽著作権協会)と管理音楽利用について対価を支払う契約を交わしたほか、テレビ番組の投稿動画については即時削除を宣言した。「これで広告の引き合いは増えた」(広報)というが、一方で集客の一翼を担っていたテレビ番組の流用動画がなくなり、アクセスの伸びは鈍化した。違法を許せば広告が入らず、締め付ければ人が出ていく--。そのジレンマに陥っている。

また、クライアントの偏りも頭痛のタネだ。ニコニコ動画の広告出稿者はゲームなどエンターテインメント業界が約5割を占める。これは、ゲーム関連の広告がネット広告市場の数%のシェアしか持たないことを考えると、高すぎる水準だ。ユーザーの大多数をアニメ・ゲーム関連のファンが占めていることが、歪みの原因を生んでいる。

とはいえ、小林社長は大衆受けを狙ったサイトのリニューアルを行う気はない、と断言する。「かつて一度だけ検討したことがあったが、支持を失うと思いやめた。むしろ現状のヲタク路線を維持しつつ、多様なジャンルのヲタクたちを巻き込む方向にしたい」。その一環として、サイト内でSNSサービスを開始、ゲーム・アニメ系以外のヲタクコミュニティ育成に期待をかける。

四方を厚い壁に阻まれながら、持ち前のアイデアを武器に現状突破を果たすことができるだろうか。ネット空間に咲き誇り、一時は業界を席巻した異形の花が、最初の正念場に差しかかっている。

(西澤佑介 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

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