「赤ちゃんカンガルー」を救う保護活動の悲喜 オーストラリアで多発する交通事故

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ある日の日曜日、ジョセフィン・ブレナンクスと夫のテリー(68)は、6頭の赤ちゃんカンガルーの世話をしていた。どのカンガルーも人の手で作られた袋に入れられ、テレビの下にぶら下がっていた。クリスマスの靴下のような具合だ。

「基本的に24時間、週7日の仕事だ」と、母親を失った赤ちゃんカンガルーの保護活動についてテリーは言う。活動はボランティアで、寄付によって成り立っている。保護されたカンガルーには、専用の粉ミルクを数時間ごとに与えている。

ミルクを与えたり、袋に使用する大量のタオルを洗ったりという作業を、日中は夫のテリーが行い、夜間は妻のジョセフィンが寝ずに行う。食事の時間は大騒ぎで、まだ跳びはねるのもぎこちない小さな赤ちゃんカンガルーが、キッチンを動き回る。その中には、ハービーと名付けられた、ウィリアムズが最近保護したカンガルーもいる。

夫婦が最初に赤ちゃんカンガルーを保護したのは15年前で、施設を始めたのは2008年だという。

カンガルーも人命も救う

私は毎日、たいてい夜が明けてから数時間、ハイウェーでカンガルーを探す。カンガルーは夜明けと夕暮れの頃に最も活動する。ある日、4時間ほど車を走らせて、北へ行ってまた戻る間、不運なカンガルーを1頭だけ発見した。

死骸を道路脇に動かすべきところだが、そこにあったのはカンガルーの耳や体の断片だったため、近寄るのをやめてしまった。数時間後にまたその場所を通ると、別の誰かが死骸を移動させてくれたようだった。

アデレードに戻る間、クーバーペディから南に240kmほどの場所で別のカンガルーの死骸を見つけた。それは夜が明けてから1時間ほど道路の真ん中にあったようだ。尾をつかみ、道路の脇まで引っ張ると、まだ体が温かかった。雌のカンガルーで、袋は膨らんでいた。

柔らかいカンガルーの毛が見えるだろうと思って袋の中をのぞくと、そこには温かくて、ややぬるりとしたものがいた。袋の中で丸まっていたのは赤ちゃんカンガルーだった。しかしそれは動かなかった。脚を引っ張ってみたが、動かない。何度か足を引っ張った後、毛の生えていない体長30cm、重さ500gほどのその赤ちゃんを袋から引き出した。首の骨が折れているようだった。

車の通らないハイウェーで、死んだ赤ちゃんカンガルーを抱いているのは悲しく、少し不思議だった。どうしていいのかわからず、少しの間、立ち尽くしてしまった。道路脇に穴を掘って埋めるのはやりすぎに思える。少しでも尊厳を与えようと、赤ちゃんを母親の傍らに寝かせた。カラスやオナガイヌワシがすぐにやってくることはわかっていたけれど。

生きている赤ちゃんカンガルーを見つけることはできなかったが、カンガルーの死骸を道路脇に移動させたことで、いくらかいいことをしたと思うようにしている。この活動についてテリー・ブレナンクスは私にこう言った。「赤ちゃんカンガルーを救えるかもしれないし、人の命も救うかもしれない」。

(執筆:Serena Solomon記者、翻訳:中丸碧)

(C) The New York Times News Services

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