太陽エネルギーの進化は、いずれ石炭を殺す 石炭産業を保護するトランプ政権の愚劣

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専門家は太陽光発電の可能性を80年代から唱えていたし、技術革新の速度も落ちてはいない。米エネルギー省は(少なくとも気候変動を認めない現政権が登場するまでは)、太陽電池モジュールの1ワット当たりの価格が1980年の22ドルから3ドル未満にまで下がったと発表していた。

電力会社が大規模なソーラーパネルを砂漠に設置した場合、コストは1ワット当たり1ドル余りにまで下がる。世界経済フォーラム年次総会での発表によれば、昨年後半の時点で、適切な条件下での太陽光発電のコストが石炭火力発電のコストを初めて下回ったという。

「テクノロジーの低価格化と足並みをそろえ、今や太陽光発電コストも下がり続けている」と、米科学者のラメズ・ナームは言う。「他の電力技術やビジネスにとっては破壊的だ」

もちろん、太陽光はクリーンでもある。炭素資源を燃やすことが気候変動につながると分かっている人なら、太陽光を応援したくなるだろう。でもたとえ気候変動を疑う人でも問題なし。彼らも低価格なエネルギーのほうがいいに決まっているからだ。

加えて太陽光は、太陽が死に絶える50億年後まで枯渇する心配がない。太陽光は約5日分で、石油、石炭、天然ガスの総埋蔵量のエネルギーに匹敵する。私たちは膨大なエネルギーのほんの一部を利用するだけでいい。

他方、太陽光発電には信頼性の問題が付きまとう。夜間や悪天のときにはどうなるのか? そこで、バッテリー技術の出番だ。大容量バッテリーもまた、絶えず低価格化を続けている。

結局、政策や条約ではなく技術と経済上の理由から、石炭は遠からず淘汰されるだろう。太陽は輝き続け、太陽光パネルはそれを電力に変換し続け、夜間や曇りの日にも余剰電力はバッテリーに貯蔵され続ける。化石燃料で儲けた大富豪たちが、航空機時代の到来に直面した鉄道王たちのごとき終焉を迎えるのは確実だ。

政府主導で雇用創出を

となると、トランプのパリ協定離脱はどう影響するのか。おそらく自然エネルギー界のシリコンバレーは中国のどこかに誕生するだろう。今年1月、中国国家エネルギー局は20年までに再生可能エネルギーに3600億ドルを投じると発表した。

カネと雇用が自然エネルギー技術に流れていくとするなら、アメリカは既に後れを取っている。なのに米政府は、気にするなと言うばかりだ。

そう、長い間石炭に依存してきた地域や人々は、とてつもなく困難な時を迎えている。北朝鮮の指導者かパプアニューギニアの秘境で伝統文化を守る部族でもない限り、技術革新の波から逃れることはできない。特に、自分を除く世界中が突き進んでいる場合には。

石炭業界にとってベストな選択は、政府が石炭産業の町で自然エネルギー事業に投資し、新たな雇用を創出することだ。かつて米アラバマ州のハンツビルにNASAの施設が新設され、農業地帯の町がロケット産業都市に生まれ変わったように。

トランプがパリ協定離脱を発表した後、ケンタッキー石炭協会のタイラー・ホワイト会長は、「彼の公約達成のための第1ステップだ」と評価した。

恐らくはそうだろう。だが現実には、トランプの公約はサンタクロースがこれからもずっと来てくれると子供に約束するようなものだ。

(文:ケビン・メイニー)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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