CIAの情報分析は誰でも応用できる手法だ あふれる情報におぼれないための5ステップ

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4)データを色分けする

重視する項目と尺度を決めたら、ようやくデータの山に手をつける。データを重視する項目に分けて、信号の色(青/黄/赤)によってそのデータについての自信度を評価する。各データの信頼性が高く、量も十分にそろって入れば青(既知)、情報に欠落があったり、量は十分でも情報源が間接的だったりする場合は黄(推量)、データが断片的、あるいは量が少ないときは赤(未知)といった具合だ。青は思っているより少なく、黄に分類すべきデータは予想以上に多い。色分けはくれぐれも慎重に。

色分けが済んだら、「能力」と「意図」に関する問いを選り分ける。つまり、「定量的な問い(投資を検討している企業からはいくらの配当が見込めるか)」と「定性的な問い(その企業の経営陣が配当を出したいと発言したことをどうとらえるか)」の区別である。後者の判断は難しい。友好的な企業であれ、非友好的な核保有国であれ、評価対象の意図はよくわかっていると言ってくるアナリストや長年の専門家には、特に注意すること。

5)見落としはないか?

「HEADゲーム」のプロセス全体を通じて最も大切なのは、最後まで謙虚な姿勢を保ち続けることだ。すなわち、「私が知らないことは何か?」(「見落としているものはないか?」)という問いをつねに心に留めておくことである。「知らない」と口に出すのはプライドが邪魔して難しいものだが、専門知識とプライドの組み合わせは、専門家にとって鬼門である。

「新顔」を補充する

これを回避するために、次の方策が挙げられる。

『CIA極秘分析マニュアル「HEAD」』(早川書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

①「現在の出来事」と「未来の出来事」の予測を区別する。豊富な知識をもとに「今」を説明する能力と、「明日」の変化を見極める能力は異なる

②専門家で構成されたチームに「新顔(非専門家)」を補充し、彼らに話す機会を与える。ほかのアナリストたちが言い訳しがちな「異例」のデータについては特に彼らに尋ねる(=新たな角度から同じ課題を分析する「レッドチーム」)

③新顔メンバーは、古株の同席者からの圧力にさらされがちなので、質問や発言の機会を保証する。「私の議論」「私の案件」「私の立場(立ち位置)」などの言葉を使う古株には注意

④集団内の同調圧力に対抗するため、この種の質問者を最低でも2人は同席させる。集団内の手が届く場所に彼らの「命綱」を用意しておくことを忘れずに

フィリップ・マッド 元CIAテロ対策センター副部長/元FBI国家保安部副部長

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ふぃりっぷ・まっど / Philip Mudd

米中央情報庁(CIA)の元情報分析官(インテリジェンス・アナリスト)1985年、CIA入庁。2001年の米同時多発テロ後にテロ対策センター(CTC)副部長を務めた。長官賞、大統領賞など受賞歴多数。その他、連邦捜査局(FBI)の国家保安部副部長、ホワイトハウ ス国家安全保障会議(NSC)のアナリストを歴任するなど、政府の情報関連部門で20年以上のキャリアを持つ。現在は、CNNをはじめ、FOXニュース、NPRなどにコメンテーターとして出演するほか、複雑な分析的問題を理解するための方法論をフォーチュン500社や政 府機関などで講じ、ニューズウィークやウォール・ストリート・ジャーナル、フォーリン・ポリシー、ワシントン・ポストなどに寄稿している。 

公式サイト:http://www.philmudd.com/ 

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