松居さんの暴走は「ネットの欠陥」を露呈した

信憑性を確認できないものが拡散されていく

ところが、コミュニケーションの速度・規模・情報発信のハードルの低さなどが進んだ結果、それによって生じる被害は看過できない程度にまで大きくなっている。

船越・松居夫妻のケースでは、名誉毀損や一方的な中傷の可能性もある情報を、発信力のあるタレントの妻が一方的に流し続けている。事実関係は2人のみが知っていることだろう。そんな情報を、何の制約を受けるでもなく数百万もの利用者が見ているのだ。今回は芸能人夫妻が発信源だったため、問題が顕在化しているが、何らかの線引きがされないかぎり、大なり小なり、この世界の片隅で似たようなさまざまな問題が生まれていくだろう。

本件について考えたとき、真っ先に思いついたのは、俳優の西田敏行さんが覚醒剤を使っているという虚偽の情報を流された事件と、コメディアンのスマイリーキクチさんが誘拐・殺人犯と名指しされた事件の2つだ。

名誉回復にかかった10年という日々

船越・松居夫妻のケースでは、松居さんという発信力と注目度が高い人物が、同じく有名俳優である船越さんを告発したため、爆発的に話題として広がったが、この2つのケースは発信源が特定されない中で情報拡散が進んだ。そうした意味では、まったく異なるタイプの事件だが、情報発信のハードルが低下したことによる影響という意味ではよく似ている(なお、あらためて書くまでもないが、両氏とも指摘された犯罪とは無関係と確認されている)。

特にスマイリーキクチさんの事件は、こうした無責任な情報発信による被害が顕在化した時期と重なっており、事実無根の情報を発信していた19人が摘発されるまで、1999年から10年という年月が必要だった。後に、キクチさんは著書の中で、殺人予告やパートナーや家族への危害をにおわせる書き込みもあり、大切な人たちを守るための戦いでもあったと振り返っている。

しかし、彼のように10年をかけて名誉回復のために戦う意欲を保ち続けられる人は少ないだろう。

西田敏行さんの場合も、アクセス数稼ぎのためにあおり記事を連発したブロガー3人が摘発されたが、彼らは単に未確認のアクセスが集まりそうなネタを垂れ流し、小遣い稼ぎをしたにすぎない。本当の犯人……すなわち、虚偽の情報を発信した犯人は見つかっていない。

あるいはこの場合、そもそも犯人と言われるような人物はおらず、業界内でのちょっとしたジョークやうわさ話から生まれたことなのかもしれない。しかし、口づてでうわさが伝わっていた頃ならば笑い話で済んだことでも、今のネット社会では瞬く間に広がっていく。昨年末にあったDeNA・ウェルク問題の遠因でもあった、アクセス数さえ集まればおカネを稼げる仕組みが、その傾向をさらに助長している。

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