調整局面に入った穀物価格の行方 天候とエタノール次第 波乱のトウモロコシ相場

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米商品先物取引委員会(CFTC)による投機資金の規制の動きも出てきている。具体的な規制が行われるかは未定ながら、「新規のポジションが立てにくくなる」(住友商事・金融事業本部アセットマネジメント部市場調査チーム長の桧垣元一郎氏)ため、短期の投機資金が商品を敬遠する動きも出てくる可能性がある。年金など長期資金への影響は軽微と見られるが、少し前までの強気一辺倒から市場の空気は変わっている。

では、今後はどうなるのか。実需筋、金融筋ともに「受粉期の天候次第」という意見は一致する。7月後半から8月上旬に主要生産州を猛暑が襲えば再び高騰するが、無事に乗り切れば当面は落ち着いた値動きになりそうだ。

そのうえで、桧垣氏は「強含みは変わらない」と見る。

ある程度の単収が出る現状でさえトウモロコシの米国の08/09年度の期末在庫は6・7%と予想されており、適正とされる2カ月分17%を大きく下回っている。伸びが鈍化しつつあるとはいえ、エタノール向け需要は50億ブッシェル程度まで伸びる。毎年、確実に50億ブッシェルが燃料用に消える以上、需給のタイト感は消えないからだ。

一方、穀物商社ユニパックグレインの茅野信行社長は「下がる公算が大きい」と見る。「米国でもトウモロコシ高の痛手を受ける畜産業界を中心にトウモロコシを使ったエタノールへの批判が大きくなっている。政府のエタノール政策が見直される可能性を織り込み、先安感が広がるだろう」(茅野社長)。

小麦は世界で大豊作 大豆は安心できず

トウモロコシは方向感が見えないが、小麦価格は弱含みとなりそうだ。

06年以降の穀物価格高騰の引き金となったのは小麦だった。06年にオーストラリアの干ばつで価格が高騰。飼料用需要が小麦からトウモロコシに流れたことで、今度はトウモロコシの需給が逼迫。そこにエタノール需要の爆発が拍車をかけた。トウモロコシ価格の上昇を受けて、米国農家は大豆の作付けを減らしてトウモロコシ生産を拡大したため、大豆の価格も上昇した。

小麦はトウモロコシに比べると生産が世界中に分散している。高値が各国の生産意欲に火をつけた結果、08年度は世界中で小麦が大豊作になっている。小麦の08/09年度の期末在庫見通しは米国で23%、世界全体で20%強と問題ない水準に回復すると見られている。

需給環境が最も逼迫しているのが大豆だ。大豆は米国、ブラジル、アルゼンチンの3国が大供給国。米国では08/09年度は大豆の作付け拡大を受けて生産量は前年度より16%増が見込まれている。それでも米国内の在庫率は4%台と超タイトなため安心はできない。もっとも、世界全体の在庫率は20%台をキープしており、トウモロコシ価格が下がれば引っ張られることになりそうだ。

農業にも、価格上昇が生産拡大を誘発する市場メカニズムの原則が働いている。とはいえ、トウモロコシの受粉期を無事に乗り込えても、収穫期には早霜リスクが待つ。市場メカニズムではコントロールできない天候要因が多分に働く。そのうえバイオエタノールの需要動向という波乱要因もある。穀物相場は高値圏を維持しながらも、不安定な動きが続きそうだ。

(週刊東洋経済)

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