介護撤退でも暗雲晴れぬ「折口帝国」
コムスン事業譲渡はひと山越えたが、依然として経営見通しに不透明感が強いグッドウィル・グループ。渦中の折口会長が報道陣の前から姿を消して、はや3カ月になる。(『週刊東洋経済』9月15日号より)
この日も「主役」は不在だった。グッドウィル・グループ(GWG)子会社で介護大手のコムスンは、在宅系事業の譲渡先が決まった4日に都内で会見を開いた。冒頭に深々と頭を下げたのは、すでに辞意表明しているコムスンの樋口公一社長。介護事業の不正発覚でも「グループ経営に全力を尽くすことが社会的責任」と、引責辞任を否定するGWGの折口雅博会長が姿を見せることはなかった。
8月末、GWGは2007年6月期決算を発表した。しかし、今期の業績見通しを示さず、例年開催していた記者会見もなし。一連の不祥事後の経営環境はよくわからないままだ。年初に11万円台で推移した株価も、6分の1程度まで落ち込んでいる。
先行きも懸念が山積
07年6月期は407億円もの大赤字。自己資本比率は前期末の35・4%から2・4%まで急低下した。たまらず増資を実施したが調達額は当初見通しの半分程度、113億円にとどまり、切迫した財務状況に変わりはない。
介護事業の売却が進む中、残る懸案は高級有料老人ホームと子会社売却の行方。焦点は、モルガン・スタンレー証券が土地、建物で390億円の簿価があると見る、「バーリントンハウス」、「コムスンガーデン」の二つだ。
特に「バーリントンハウス」は折口会長自慢の超高級ホーム。1棟目の「馬事公苑」に続き今年5月に「吉祥寺」がオープンした。ただ、入居を検討し「馬事公苑」を訪れた男性によると「建屋は立派だが入居率は6割がせいぜい。あれで採算が合っているのか疑問」と話す。同社には虎の子的な存在。高値売却で資本充実を図りたいはずだ。だが「土地の値上がりはあるにせよ、特に入居一時金最大3億円のバーリントンハウスは通常の介護事業者ではまず無理。同種事業を展開するセコムやオリックス(買取意思表明はない)など大手だと相当買いたたかれるだろう」(野村証券の繁村京一郎シニアアナリスト)。仮に多額の売却損が出れば、脆弱な自己資本がさらに毀損する。
そして、最大の懸案は日雇い派遣業の社会問題化だ。不明朗な賃金控除と批判された「データ装備費」について、同社は過去2年分に限って返還を決め特別損失を計上した。しかし8月に派遣スタッフ26人が全額返還を求め集団訴訟を提起。損失額が膨らむ可能性もある。同社が禁止業務に対して法違反の二重派遣を行っていた疑惑もくすぶったまま(本誌8月25日号で既報)。同業のフルキャストは禁止業務の派遣で全拠点1カ月の事業停止命令を受けた。法違反が認定されれば同様に厳しい処分が予想される。
また、GWGの今年6月末の有利子負債は2000億円弱。1年前の3倍に膨れ上がった。メインバンクはみずほ銀行。同行は昨秋、クリスタルの買収資金883億円を、わずか1週間で用意した。買収は「デューデリジェンス(資産査定)なしで決めた」(折口会長)もので、両者の親密な関係を物語る。以前は三井住友銀行との並行メインだったが、融資シェアは3割から6割弱に拡大。05年にみずほ銀はGWG株を担保に折口会長の資産管理会社にも272億円を貸し込んでいる。
そのみずほ銀も警戒心を高めている。今年6月に厚生労働省がコムスンの指定取り消し処分を下した後に慌てて、各行に協調融資の組成を提案。だが、まとまるはずもなかった。「今後GWGが債務超過に陥れば債務者区分を破綻懸念先とせざるをえない。みずほは巨額の引き当てを迫られることになる」(銀行関係者)。コムスン問題という山は越えたが、GWGの綱渡りはなお続いている。再建に当たってメイン行がどう動くかも注目されるところだ。
(書き手:風間直樹 撮影:尾形文繁)
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