ミンダナオ紛争を戦った「キムラさん」の正体

日系イスラム戦士、「日本への思い」を語る

伯父のトシオ・キムラ(家族提供)

キムラ1世は現地のイスラム教徒の女性ソウヤ・モラと結婚し、長男トシオ、次男アシャム、長女イレニア、次女ババエの4人の子供を授かる。彼らが日系2世である。長男トシオ・キムラは紛れもなく日本名であり、この名前は公文書にも明記されている。1世の面影を受け継いでいると思われるトシオは長身の男前だが、生涯独身で子供はいなかった。

長女イレニア・キムラは、ベネディクト・ナイーグというキリスト教徒の男性(後にイスラム教に改宗)と結婚する。夫婦の間に生まれた6男4女が日系3世であり、このうち1950年生まれの三男がハムザ・キムラ・ナイーグだ。キムラ1世はイレニアが幼い頃に病死して、ダバオに埋葬されており、ベネディクトとイレニアも数年前に他界したという。

「和歌山の電気技師」なるキムラ1世の情報は、ハムザ・キムラが母イレニアから聞いて覚えていたもので、ほかに「町役場や街路灯を建設し、幹線道路計画にもかかわった」などの話がある。日本をしのばせるエピソードとしては「戦時中に日本の兵隊が家に来て石けんをくれた」というイレニアの若い頃の思い出話がある程度だ。

政府軍との死闘を生き延びる

ハムザ・キムラが高校に通っていた1960年代後半は、フィリピンの圧倒的多数派であるキリスト教徒のミンダナオ入植によって、先祖伝来の土地を奪われるなど圧迫を受けたイスラム教徒が武装蜂起する直前の時期である。大多数のイスラム青年と同じように、キムラも政府軍やキリスト教系民兵集団による残虐行為に憤激し、「ジハード(聖戦)に加わるのはイスラム教徒として当然の義務」と信じて自警団に身を投じた。

フェルディナンド・マルコス独裁政権による弾圧が激化した1970年代初め、MILFの前身「モロ民族解放戦線」(MNLF)に参加し、幹部の警護役などを務める。さらに1984年に分派したMILFに移って、政府軍との交戦を何度も経験した。キムラは数々の戦闘を振り返る。

「政府軍の装甲車2両が機銃掃射しながら迫ってきた。われわれは20人しかおらず、重火器もなかったが、ジャングルに隠れて自動小銃や手投げ弾で反撃した。敵の歩兵10人以上を倒し、こちらは全員無事だった」

「政府軍に5日間包囲されて生き延びた時のことは忘れられない。至近距離から銃撃されて立ち上がることもできず、畑のキャッサバを泥つきのままかじり、養殖池の水を飲んで戦った。仲間5人を失ったが、政府軍兵士を20人以上やっつけた」

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