立川談志は怒りの感情をこう「いなし」ていた 落語流アンガーマネジメントのすすめ

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あるとき私が「らくだ」という酒を飲んで性格ががらりと変わってしまう屑屋が主人公の長編落語を演じているとき、携帯電話を鳴らしたばかりか、なんと客席で電話に出たお客さんがいました。

あ、なんとかしなきゃと思った私は、後半酔いつぶれた屑屋が、愚痴をこぼす場面がありましたので、そこでリカバリーショットを試みました。「まったくよ、世の中、わけのわからない人が多すぎるよ。携帯鳴らしたばかりじゃなくて、まさか電話に出るとはな」と。

ここでお客さんは大爆笑。見事に回復運転ができたと手ごたえを感じたものでした。談志門下で9年半も前座を務めなければならなかった私は(注:一般的に前座の修業期間は3~4年といわれる)、ハッキリ言って鈍才です。落語の中に登場する「バカの代名詞」の与太郎レベルです。天才なんかでは絶対ない私のような人間でも、こんなアドリブ力が発揮できるようになるといういい見本かもしれません。

「相撲」で言うなら「いなし」でしょうか。「怒り」に対して「怒り」で立ち向かうのではなく、相手の怒りをそいでしまうような、柔らかな受け止め力を発揮するには、やはり「俯瞰に立つ目」が必要なのかなと思います。

怒りを味方にすれば、仲間が増える

日常でもこのような場面はありますよね。たとえば、スーパーのレジの女性に尋常でなくクレームを言い続ける人を見たとき。周囲の思いは、「レジのおばさん、がんばって!」という、無言ではあっても確かな声援だったりしますよね。

同情は得てして愛情を引き起こすものです。あなたが今、本当にめんどうくさい人に直面していたとしたら、それは逆にあなたの支援者を増やすチャンスでもあります。チャンスは案外ピンチの顔をしてやってくるものです。周囲の人は必ず見ています。

『落語に学ぶ「弱くても勝てる」人生の作法』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「俯瞰」に立つ訓練で培った「受け止め力」「アドリブ力」を発揮して、その難局を乗り切ってみてください。「怒りの勢いで立ち向かって来る人」は、「感情に支配された弱い人」なのです。そう思うだけでもきっと優位に立てるのではないでしょうか。

やがてあなたに向かっていわれのない怒りをぶつけてきた人は、自分の力で遠くに船出するようなあなたに、きっと悔やむはずです。だって「怒り(錨)」に「後悔(航海)」はつきものですから。「俯瞰」を習慣にして、目に見えない味方をぜひ増やしていってほしいと思います。

立川 談慶 落語家

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たてかわ だんけい / Dankei Tatekawa

1965年、長野県上田市(旧丸子町)生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。2000年に二ツ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。2005年、真打ち昇進。慶応大学卒業の初めての真打ちとなる。 著書に『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)、『大事なことはすべて立川談志に教わった』(KKベストセラーズ)、『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方 』(PHP文庫)などがある。

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