「英国お召し列車」に日本製が採用されたワケ エリザベス女王が興味を示した「あの技術」
今回のお召し列車に使われた編成には、ロンドン方の先頭車両には「Queen Elizabeth II」と刻まれたが、ブリストル方の先頭車は、英国の元首として初めて鉄道に乗車した「Queen Victoria」の名前が冠された。
2人の女王の名前をいただくこの1本の編成は、175年に及ぶ鉄道史のみならず、産業革命以降の英国の歴史そのものを背負っている、と言っても過言ではない。列車へは、この夏をもって公務からの引退が決まっているエリザベス女王の夫君で96歳のエジンバラ公フィリップ殿下も全行程を同行し、人々の大歓声を浴びた。
エリザベス女王夫妻は1975年の訪日の際、名古屋駅から東京駅まで「新幹線0系」に乗車した経験もある。ひかり号と併せ2つの日本製高速列車の乗り心地をどのように比較したのだろうか。非常に興味深い。
列車は鉄道会社の伝統の色に
英国で鉄道が開通する前、ビクトリア女王は王室の居城・ウィンザー城とロンドン中心部にあるバッキンガム宮殿との間を馬車で往復していたという。未舗装の道路を馬車で走るのは、天候に左右されたり砂ぼこりが立ったりと大変な苦行だったようだ。
ところが、1838年にロンドン・パディントン駅とブリストルを繋ぐ「グレート・ウェスタン鉄道(GWR)」が開業するや、馬車での長距離移動が汽車旅へと変化。人々の暮らしが大幅に便利になった。
ビクトリア女王は、夫のアルバート公に促され、ウィンザー城に程近いスラウ駅からパディントン駅に向かって汽車旅を体験することになった。汽車というものに興味があったらしく、発車の正午よりも3時間も早く駅に出かけてあれこれ見物したとの記録もある。「英国初のお召し列車」の機関士役を担当したのは、19世紀を代表する鉄道や土木関係の技術者として広く知られるイザムバード・キングダム・ブルネルだった。彼の名前を冠した「ブルネル賞」は優秀なデザインの鉄道車両や鉄道構造物に与えられる賞として世界的に有名だ。
今回、エリザベス女王が乗車したクラス802は、今年3月5日に下松市で市民向けにお披露目された車両と同じく深緑色に塗られているが、これはブルネルが造った蒸気機関車(SL)に塗られていた「ブランズウィック・グリーン」と呼ばれる色を使っている。GWRは主力路線に新型車両を投入するに当たり、原点回帰ともいえる心意気で準備を進めているわけだ。
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