鉄道写真家、独立後の「1枚」はこう変わった 「宮仕え」時代とは違うサバイバル仕事術

拡大
縮小

流し撮りを決めた後、ほかの撮影地に移動したものの、最後にもう一度この場所を訪れた。山中は日陰になるのも早いが、5月6月は想像より長時間にわたって峠に光が差し込む。朝や夕方は斜光線となり、日中とは異なる光がとても美しい。

そこで、望遠気味のレンズで撮影していたのをやめ、広角寄りのレンズを選択。構図内に余計なものが入らないギリギリまで木々を入れて、あえて車両を小さく写してみた(写真3)。実際撮影してみるとこの場所の絵の中ではいちばん気に入ったカットになったのだが、結局このカットにたどり着くまで合計で5時間近く費やしたことになる。

写真3 構図内に余計なものを入れずギリギリまで木々で埋めた(筆者撮影)

今回のような撮影は誰かの依頼を受けて出向いたわけでなく、自分自身のために行っていることだ。こんなに時間をかけた撮影であっても日の目を見ないかもしれないし、実際そういったカットのほうが多い。発表する機会がないということは、収入が得られないということだ。

そこがフリーランスのつらいところではあるが、撮影に行かないことには「写真家」とはいえない。写真家として自分の作品を追求するために独立したのだから、これからも焦らず、そして独立した直後のあの「恐怖」を忘れずに、自身の作品にこだわって鉄道を見つめていこうと思う。

村上 悠太 鉄道写真家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

むらかみ ゆうた / Yuta Murakami

1987年東京都生まれ。高校時代には「写真甲子園」に出場。交通新聞社『鉄道ダイヤ情報』にて「突撃!ユータアニキ 鉄道HERO完全密着」連載中。撮影の講師や講演を多数行う。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT