マニラ首都圏鉄道で日本が信頼される理由 アジア最悪の渋滞は解消されるのか

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MRTでも中国・韓国企業が絡む不祥事が政治問題化している。フィリピン上院のグレース・ポー公共事業委員長は5月15日、MRTに関する2つの疑惑について、運輸通信省の責任を追及する聴聞会を開いた。

ひとつは、中国中車大連機車車両有限公司から購入した車両48両が、信号システムの不備で運用できない問題だ。中国で試験走行したうえで納入される契約だったが、それが履行されず、昨年マニラに順次到着した後に不具合が発覚した。購入費は総額38億ペソ(約87億円)に上り、あまりのデタラメぶりに批判が湧き起こっている。

もうひとつは、ドア故障や脱輪事故など大小のトラブルが昨年586件も発生していること。MRTの保守点検は、建設主体だった三菱重工の現地法人が2012年まで受注し、正常に運行されていたが、現在は韓国企業連合が行っている。現地では「安全運行という鉄道の根幹業務を、なぜ信頼性の低い韓国企業に委ねたのか」と疑問の声が上がっている。

ドゥテルテ政権は実利を重視

日本は「質の高いインフラ輸出」を掲げており、技術力の高さ、納期を厳守する誠実さなどがフィリピンでも高く評価されている。だからといって、中国も黙って商機を見過ごしているわけではない。今年3月、先述の南方線に関して、中国・フィリピン両政府はマニラ近郊―アルバイ州都レガスピ間(約650キロメートル)の整備事業に合意している。

現地関係者はこの経緯について次のように解説する。「中国としては、最も重要な首都圏通勤線や地下鉄を日本に総取りされたことに地団駄踏んでいる。日本が首都圏通勤線、中国が長距離ローカル線という分担ではメンツが立たない。せめて通勤線・ローカル線の境界となる駅を、首都圏の外ではなくマニラ市内に設定しようと水面下で折衝している」。

南シナ海領有権問題で中国と対立したアキノ前政権と違って、実利重視で融通無碍なドゥテルテ現大統領は、日中それぞれの顔を立てながら、双方からうまく支援を引き出すスタンスだ。安倍首相は政府開発援助(ODA)と民間投資合わせて5年間で1兆円規模の経済協力を表明し、中国も約2兆5000億円の支援を約束した。中国はドゥテルテ大統領の地元ミンダナオ島の鉄道建設なども提案している。

国内市場が縮小する日本にとって、インフラの海外展開はまさに国策でもある。鉄道では2015年9月、インドネシア新幹線(高速鉄道)争奪戦で中国に“逆転負け”した記憶が生々しく、フィリピンの鉄道案件は「絶対に負けられない首相官邸マター」(日比外交筋)に位置付けられる。

そこには単なるインフラ事業や経済協力に留まらず、南シナ海問題など東アジアの安全保障面でフィリピンを日本・米国の同盟につなぎ留める戦略的意味合いもある。マニラ首都圏の鉄道プロジェクトが、日本・フィリピン2国間関係のいっそうの深化につながることが期待される。

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