マニラ首都圏鉄道で日本が信頼される理由 アジア最悪の渋滞は解消されるのか

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フィリピンで動いている大規模な鉄道計画はマニラ地下鉄だけではない。もうひとつの注目プロジェクトが、2015年に打ち出したマニラ首都圏を縦断する「南北通勤鉄道計画」だ。

フィリピン国鉄は現在、マニラ中心部のツツバン駅を始発とする南方線を運行しているが本数は多くない。また、北方線は1991年に廃線されており機能していない。この行き詰まりを解消しようというのが、南北通勤鉄道計画である。

政府の構想は、首都圏内の通勤線および北方線は日本、南方線のローカル鉄道は中国の支援で建設するというもの。北方線はツツバン駅―ブラカン州都マロロス(約38キロメートル)が円借款による「南北通勤鉄道」として整備されることになり、すでにJICAが詳細設計を進めている。

東京で3月27日に開催された第1回「日フィリピン経済協力インフラ合同委員会」で、フィリピン側は、(1)マニラ地下鉄、(2)南北通勤線をさらに北に延伸するマロロス―パンパンガ州クラーク空港線、(3)南方線のツツバン駅―ラグナ州ロスバニョスの通勤線の鉄道3案件をはじめとするインフラ14事業について、日本に協力を要請した。

マニラ首都圏とクラーク国際空港間約100キロメートルを結ぶ鉄道計画は、マニラ地下鉄と並ぶ注目案件だ。1991年まで米空軍基地だったクラーク空港一帯は、環境配慮型都市「グリーンシティー」として大規模に再開発する構想があり、海外のインフラ事業を支援する国土交通省系の官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)」が参画する。クラーク都市開発と併せて、北方線の全ルートを日本が受注するインパクトは大きい。

かつて中国は建設現場を放棄

中国が建設途中で放棄した鉄道高架 =マニラ北方のブラカン州都マロロス(筆者撮影)

中国も北方線の独自案をドゥテルテ大統領に持ち掛けたと見られるが、実はこのルートで中国は過去に失態を演じた経緯がある。

中国寄りだったグロリア・アロヨ政権時代の2007年頃、マニラ首都圏カローカン―マロロス区間の鉄道建設が中国政府系の中国輸出入銀行の融資を受けて始まった。ところが、公開入札を行わずに中国企業を建設主体に選んだり、フィリピン政府高官が絡む汚職疑惑が起きたりとトラブルが続発。2010年に就任したベニグノ・アキノ大統領は事業契約を破棄し、中国側は現場を放棄して撤収を余儀なくされた。

マニラから車で約1時間のマロロスを訪ねると、鉄道高架のコンクリート構造物が国道沿いに数キロメートルにわたって並んでいる。すでに鉄骨がさび付き、場所によっては早くも熱帯の茂みに埋もれつつある。

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