ビジネスでもいじめ、競争がねじ曲げられる
課徴金の対象範囲を拡大
が、世の中、まんざら捨てたものでもなかった。ナイガイvs.ニプロの“戦い”は、最終的に村津社長に軍配が上がった。1999年3月、大阪地裁が「債務不存在」の確認訴訟でナイガイ勝訴の判決を下し、同年6月、公取委がニプロの立ち入り検査に踏み切った。翌年2月、公取委が排除勧告を出すに至って、ニプロの違法行為はやんだ。
それにしても、最初の違法行為からここまで5年間。ニプロが「担保か現金か」の取引条件を迫ったのは大阪地裁の判決が出る直前であり、判決後もその条件を改めなかった。このとき、特定の生地管が払底し、追い詰められた村津社長は、ニプロの言い値をのみ、スポット供給を受けた。もし、公取委の勧告がズレ込んでいたら、さすがの村津社長の根も尽き果てていたかもしれない。
2005年の独禁法改正で、公取委はいきなり排除命令を出すことができるようになった。改正前は、勧告の後、“被告”(被審人)の主張も吟味する審判が行われ、“クロ”となって初めて命令が出た。
命令は勧告と違って法的強制力を持つ。改正は、村津社長のような立場に置かれた人間には心強い限りだが、経済界からは、いきなり命令を出すのなら、審判はいらないのではないか、という批判がある。
だが、ニプロの審判は、審決まで6年超かかった。ナイガイの売り上げはピーク時の15億円から9億円に落ち込んだ。もし、審決-命令が出るまで、違法行為が続いていたら(勧告には強制力がない)、村津社長の会社は消えていただろう。
ニプロの審決で問題なのは、むしろ、“クロ”(違法行為を認定)にもかかわらず、課徴金が科せられないことだ。審決は「違法行為はすでになくなって」おり、ニプロには「格別の措置を命じない」とした。これでは、“競争制限行為”はやり得か、ということにもなりかねない。
現行の独禁法では、カルテル・談合や「支配型私的独占」(株式取得などで市場を支配)は課徴金の対象だが、「排除型私的独占」(不当廉売などで市場を独占)は課徴金の対象にならない。ニプロは「排除型」とされたのだが、「型」はあくまで供給者の視点からの分類だろう。
消費者の視点に立てば、「支配型」も「排除型」も、消費者利益が阻害される点で何の変わりもない。
ナイガイのような競争意欲のある事業者を排除すれば、それこそ、生地管の価格は供給側に一元的に支配される。値上げを提示されても、アンプル加工業者は抵抗できない。では、値上げをのまされたアンプル業者はどうするか。中小企業のアンプル業者が“大”製薬会社に対して価格転嫁を実現する手段はただ一つ、談合だ。競争制限が次の競争制限を呼び、アンプルの最終購入者=消費者利益が損なわれていくのである。
公取委も問題点は認識している。前国会に上程した独禁法改正案の眼目は、課徴金の範囲を「排除型」や「不当廉売」「優越的地位の濫用」に拡大すること。会期切れで継続審議になったが、あるいは、この法案はナイガイvs.ニプロが一つのきっかけになったのかもしれない。
村津社長が言う。「(競争制限は)おかしい。そういう強い思いを大企業の経営者も持ってほしい。そうしなければ、世界経済の中の日本は、私と同じ立場になりますよ」。
景気後退が深まる中、日本の経営者は企業“連携”や、株式持ち合いに逃げ込もうとしているように見える。だが、競争こそが企業基盤を強め、消費者利益に貢献する。その信念を固めなければ、世界経済の「大独占」にも対抗できない。村津社長の苦い警告をかみしめたい。
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