円高をモノともしない工場の意外な強み ダイキン流「ええかげん」力
滋賀県の南部に位置する草津市。エアコン販売世界2位、国内首位のダイキン工業は、かつて宿場町として栄えたこの地に、ルームエアコンの製造拠点、滋賀製作所を構える。工場面積27万平方メートル、年間生産能力440万台(室内機・室外機合計)を誇る巨大工場だ。
2003年にトヨタ生産方式を本格導入。05年には生産管理責任者が優秀と評価され、日本能率協会の「大野耐一賞」を受賞した。設備稼働率95%以上、不良品発生はほぼゼロに近い。ものづくり王国・日本の、中でも極めて上層に位置する優良工場である。そんな滋賀製作所の、他社にないユニークさ。それは工場の幹部が漏らした次の言葉にある。
14期連続の増益に猛進 「鼻の差」で世界一が射程
「この工場には、ダイキン流の“ええかげんさ”があるんですわ」
標準語の「いいかげん」とやや違い、関西弁の「ええかげん」には「ゆとりがある」というニュアンスが含まれる。トヨタ生産方式の追求=ムダの排除と、この「ゆとり」。相反する二つの概念、どうつながるのか。
今年5月、ダイキンは10年度を最終年度とする中期計画の上方修正を発表した。当初は10年度売上高目標を1兆7000億~1兆8000億円としていたが、欧州を中心に世界販売が伸びているため、目標を1兆9000億円に引き上げた。
中計で狙うのは念願の「エアコン世界一」だ。
省エネ技術を核とした業務用エアコンを武器に世界戦略を加速し、エアコン事業は売上高1兆6200億円(10年度)を目指す。一方、最大のライバルである世界首位の米キャリア社の同年度エアコン事業売上高は、1兆6000億円にとどまるとダイキンは見ている。「鼻の差ではあるが、世界一の空調メーカーになる可能性が出てきた」。会見の席上、井上礼之会長は力強く語った。
売り上げ拡大だけでなく、利益確保にも力を注ぐ。目下のところ、14期連続で営業増益を続けており、今08年度も営業利益は9%増の1400億円を見込んでいる。
円高による利益圧迫に苦しむ企業が多い中、海外売り上げ比率60%超の同社が円高をモノともしないのは、グローバル生産体制を確立しているためだ。欧州、北米、中国、タイなどに生産拠点を持ち、現地で生産・販売する「最寄り化」を構築。海外生産比率は約70%、現地での部品調達率も80%強に達する。
これらの海外拠点に生産技術を移植するマザー工場の役割を担うのが、冒頭の滋賀製作所である。
その室外機工場に一歩足を踏み入れると、ある特徴に気がつく。部品を載せたパレットをコンベアで流し(=ライン生産)、それを作業員がコンベアの中で組み立て(=セル生産)ていた。