累計で百数十件の起案がありましたが、この中から実行に移された案件はひとつもありません。社員はすでに冷めてしまっていて笛吹けど踊らず状態。一方で役員も「うちの社員は経営学の素養もないし、新規事業の経験もないし、うちの社員には難しいだろう」「今抱えている仕事もそれぞれ忙しいし、新しいことを考える余裕もないのだろう」と、嘆き半ば諦めてもいます。
「有志の社員の起案に頼らず専門部署を設置して検討した方が……」との声も出ていますが、組織化が実現するまでには未だ時間が掛かりそうです。
本当にA社の社員には新規事業を起案する力がないのでしょうか。それとも起案するモチベーションが足らないのでしょうか。社員の力をもっと活かせる方法はなかったのでしょうか。
「社内起業提案制度」はなぜうまくいかないか
近年、ボトムアップで社内から新規事業を興していこうと考える企業が増えています。10年前と比べると利益を出せる企業が増えてきました。資金力に余裕が出た企業はM&Aなど投資を積極的に行うようになりましたが、近年では「外から買うだけでなく自社の中から新規事業を産み出していこう」という機運が高まってきています。
その一環として、社内起業提案制度を導入する企業が増えています。
筆者は1990年代後半の7年間、リクルート社で「New-RING」という社内起業提案制度の事務局を務めました。
「New-RING」は「ゼクシィ」や「R25」「スタディサプリ」などさまざまな新規事業を生み出してきており、今もリクルート社の社風を最もよく体現している制度の1つとして当時よりさらに充実した制度となって運営されています。
その立場からすると、さまざまな企業で同種の制度が広まることは大歓迎なのですが、残念ながらほとんどの企業で運用がうまくいっていません。初年度は盛り上がったものの徐々に件数が減少し、今後継続するかどうかが審議されている企業も散見されます。
筆者はこれまでさまざまな企業で同種の制度の設計や運用に携わってきましたが、こういった制度がうまくいっていない最も大きな理由は「実施目的が曖昧なこと」だと見ています。
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