サッカーも人生も「ミス」をするから面白い! 村井チェアマンが語る、Jリーグの今後(下)

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それから町おこし。観光や地域の歴史資産、食文化などとスポーツを合わせてイベントを開催するクラブもある。世界の子供たちを招待してサッカー大会を開くケースもある。川崎フロンターレはホームゲームでチラシ配布やプログラム販売などに参加する「就労体験」を実施している。

このように、54クラブが持つ知見を集めて一斉に展開すれば、新たな社会貢献モデルができるのではないか。今はいろいろと研究している最中で、多くのNPOのリーダーがこのオフィスに集まって議論している。もう少し経つと、発表できるものも出てくると思う。

成功する要素は、活動を通じてある程度資金が回ることだろう。54クラブをプラットフォームとして使えるような大きなスケールを描けること。オープンで多くの人が集えること。こうしたアイデアならいろいろできる。これまでの25年は地域密着で裾野を広げてきた。これからの25年は、本当の意味で社会課題を解決していきたい。

サッカーはミスだらけ、だから魅力がある

――村井チェアマンはサッカー選手出身ではなく、リクルートグループでの経験が長い。どんな経験が現在につながっているのか。

人並み外れてサッカーへの思いはあるつもりだが、競技としてちゃんとやっていたのは高校だけで、競技レベルはプロとはまったく違う。ただ、原(博実・副理事長)さんは元日本代表の選手だし、代表チームを率いた強化責任者で監督もやっていた。そういう意味では視界を広く持てる。経験がないことを卑下しなくてもいい。

一貫して人と組織を見続けたキャリアは珍しいかもしれない。新人のときは求人広告を取るために、秋葉原で段ボール一箱1つ分の名刺を集めるくらい飛び込み営業をしていた。ビルのすべての会社に飛び込む「ビル倒し」ですね(笑)。

それから人事部長や人事担当役員をやったり、人材バンクの社長にもなったりもした。海外でヘッドハンティングの会社も経営した。人の意識が前を向けば組織は必ず変わる、ということを30年間見続けてきた。

村井満(むらい・みつる)/1959年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。2008年からJリーグ理事を務め、2014年1月に第5代チェアマンに就任(撮影:梅谷秀司)

サッカーは90分戦って0対0で終わることも多い。つまりミスばっかりだ。ミスが多いからこそ、人の心をつかんで放さないのだと思う。「プレゼンで失敗してしまった」とか、自分の人生と重ねて見ることができる。試合を見て「下手くそ! バカヤロー!」とか言ったりして(笑)。

だから、Jリーグでも「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価) 、Action(改善)ではなく、DとCの間にM(ミス)を入れて、ミスも共有しよう」といつも呼びかけてきた。

2ステージ制を2年でやめたことは批判を受けるかもしれない。組織改革も、デジタルへのチャレンジも、クラブの育成組織を評価する仕組みもそうだ。ミスするかもしれないが、それでもやっていこうと。それがサッカーのやり方だと思う。ようやく、少しずつだがJリーグ全体の意識も変わってきたところだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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