「痴漢冤罪」は鉄道会社と弁護士が組めば減る 鉄道業界だけでは「無実の人」は救えない

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C社からは、「鉄道会社としては、速やかに警察に引き継いで片をつけたいので、わざわざ時間がかかるようなことはしたくない」という回答があった。弁護士が来るまでは時間がかかるし、駅務が滞りかねないので鉄道会社としては面倒なのかもしれない。

一方で、頭ごなしに否定しない鉄道会社もあった。D社は、「以前、証券アナリスト向けの説明会で、アナリストから同様の提案がありました」と言う。同じことを考えていた人がほかにもいたのだ。E社も「まるっきり可能性がないわけではない」と言う。しかし、「問題が問題なので、どこか1社だけが率先して実施するということはないはず。やるとしたら各社一斉にという形になるのでは?」ということだった。そうなると、監督官庁である国土交通省や日本民営鉄道協会のような業界団体に動いてもらう必要がある。でも腰を上げてくれるかどうか。

弁護士ボランティア団体の活用も

ここまでの経緯を説明したところ、小島弁護士から逆提案があった。「ポスター掲出であっても鉄道会社が自発的に弁護士を紹介するのが難しいなら、弁護士会など弁護士の団体と協力して行うならどうか」。

鉄道会社が乗り気でないなら、弁護士会や弁護士のボランティア団体との共同でポスターを掲出などのキャンペーンを行う。たとえば、ポスターの上半分は鉄道会社の担当で「犯罪を疑われても線路に逃げるといった危険行為はやめてください」といった告知をして、下半分は弁護士団体の担当にして「線路に逃げずに弁護士に連絡を」と書いて、連絡先を目立つように掲載しておく。これなら、鉄道会社も乗りやすいかもしれない。

ここまで当方の質問に答えてくれた各社社員の中には、「冤罪回避の取り組みよりもまず、痴漢行為そのものを防がなければいけない。冤罪回避に取り組んでいると、痴漢対策を放置しているように受け取られかねない」という回答が複数あった。

確かにそうだ。では、各社は痴漢対策にどこまで本腰を入れて取り組んでいるのか。「痴漢は犯罪です」といったポスターを張る程度では抑止には程遠い。

「当社の路線では痴漢冤罪のトラブルはあまりありません」。F社の担当者が胸を張ってそう語った。名前を出したいところだが、他社との関係上、やはり匿名にしたいとのこと。ただ、この会社の路線は、他社路線と比べそれほど混んでいないという特徴がある。混雑率と痴漢冤罪には相関関係があり、混雑している電車ほど痴漢冤罪は多いということは容易に想像がつく。乗客同士が密着しているので、誤解を招きやすいからだ。

つまり、痴漢、そして痴漢冤罪をなくす最善の方法は、その根本理由をなくすこと。すなわち満員電車をなくすことにほかならない。「満員電車の中で痴漢に間違われないようにするためには、両手を上に上げておくしかない」。新聞やテレビでこんなアドバイスをよく目にするが、ただでさえ苦しい満員電車の通勤で、なぜ、さらに厳しい姿勢をとらなくてはいけないのか。鉄道会社はそれではよしと思っているのか。一般の通勤客にそんな自助努力を求める日本の通勤電車事情は絶対におかしい。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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