北朝鮮経済の実像は「原油」から読み解ける なぜ1日でガソリン価格が高騰したのか
2000年代以降、北朝鮮では自動車が増加し、自家発電機や電動自転車、オートバイの利用も増えている。そのため、ガソリンや軽油の需要も増加した。平壌市内のあちこちにガソリンスタンドが登場し、カネさえあればいつでも石油を使うことができるようになった。北朝鮮住民にとって石油を消費することは、すでに一部の特権階級にだけのものではないほど一般化されている。
石油価格も国際価格に比べて低いレベルであり、かつ相対的に安定している。そのような中、冒頭で紹介したように1日で石油価格が急騰する事態が発生した。この原因は供給が減ったためだ。すなわち、市場経済の原理が働いたことになる。
供給が減った理由は、いろいろある。まず、中国が北朝鮮向けの石油輸出を中断した可能性があること。まだ確認されたものはないが、この可能性は排除できない。一方で、今後、中国をはじめ中国など国際社会からの石油供給が中断することを恐れた北朝鮮当局が、そうした事態に備えた可能性もある。あるいは、米国の軍事攻撃に備えて備蓄を増やそうと、内部での供給を減らしている可能性も高い。石油製品の輸入はまだ減っていないが、万一の場合に備えて、今から節約を始めた可能性もある。
さらには、外部環境を北朝鮮当局が利用して石油価格を引き上げ、引き上げた分(小売価格で36%上昇)を一種の油類税として徴収し始めた可能性さえある。この場合、再び石油供給が正常化しても、価格は上昇したままになるだろう。
一般的に、消費者は石油のような必需品の価格が上昇すれば、いち早く値上げに対応する傾向がある。そのため、石油価格は下方硬直性を持つという市場経済的特性を見せる。反面、北朝鮮当局はこれまで「税金がない国」を打ち出してきたが、実質的には需要調整のため価格を調整し、いわば税金のようなものを徴収し始めたとも考えることができる。
もし、これが事実であれば、北朝鮮は財政政策として税金を徴収するなど多様な方法を活用し始めたことを意味する。北朝鮮が石油輸入が遮断されたとしても、非公式な取引市場で石油を調達でき、北朝鮮経済そのものは石油依存度が低いため、相当期間持ちこたえられるだろう。
対外依存度を高めれば暴走はない
昨年、外国人も多く利用する平壌の高麗ホテル上層階で火災が発生した。このニュースは写真とともに、リアルタイムで外部へ拡散した。その後も、各種の国際交流的な行事が北朝鮮国内で開催されると、写真を含めさまざまなニュースや投稿がSNSを通じて外部へ拡散されている。平壌にいる外国人は、外部とコミュニケーションできるインターネットの利用が許されているだけでなく、比較的自由に携帯電話でのSNS利用が可能になっている。
これらを総合的に見ると、北朝鮮もすでに、外部世界とつながっているということだ。外部とつながっている分、孤立させようとする経済制裁などの効果を期待するのも難しいことになる。すでに北朝鮮は石油がなければ不便な社会となり、市場のガソリン価格は国際価格と連動し始めた。とはいえ、北朝鮮が大規模に石油を使用するような構造ではないため、制裁によって北朝鮮が白旗を揚げる可能性は低いこともわかるだろう。
したがって、北朝鮮をお手上げにさせる制裁とは、北朝鮮経済の対外依存度を高められるような策を実行すべきだということになる。また、北朝鮮の産業構造を、北朝鮮内部では調達できない原材料を使わざるをえないような構造に誘導すべきでもある。圧力一辺倒の制裁には限界があることを、今回のガソリン価格上昇は示した。だからこそ、圧力に加え、対話をも並行させる対北朝鮮戦略が必要なのだ。
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