仏マクロン「一度挫折した自由化政策」の行方 オランド前政権の二の舞になりかねない

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今回の選挙における最大の争点は、崩壊していくフランスの中産階級をどう救うかという問題だった。マクロン氏は自由こそ経済を発展させ、結果として国民を豊かにすると主張する点で、フランス革命期の左派を代表しているといえる。一方、ルペン氏は家族の連帯こそ国民を豊かにするという点で、右派を代表しているといえよう。では、平等を主張するものはどこに行ったか、それが第一次選挙で落選した、ジャンリュック・メランション氏だった。

右派と極右を対局に置くことに違和感を覚えるかもしれないが、フランス革命期においてそれは妥当する。極右は、国家、家族、連帯を思想の根本に据えている。だから彼らが貧困層に近づいたとき、その政策の根本にはフランス文化に根付いた、フランスの家族の再構成があった。家族のお手本はカトリック文化を体現した本来のフランス人にあり、そのお手本は移民労働者に対しても強制される。彼らが人民(民衆)や大衆という言葉を使ったとしても、中核にあるのはカトリックを信仰し、連帯を大切にする伝統的フランス人である。もっと具体的にいえば、独立自営業の小生産者のフランス人ということである。

要するに、ルペン一家の業とする不動産業のような独立生産者がフランスの家族の典型であり、連帯の中心にいるということになる。その思想の根本は、宗教、伝統文化、そして反権力であり、その意味で反国家である。不思議かもしれないが、1920年代のアナキズムの運動が、こうしたフランスの極右勢力に影響を与えたといわれるのは、この点にある。独立生産者を中心とした労働者の世界がアナキズムであったとすれば、それは極右的価値観に近いものでもあったのだ。

規制緩和を訴えていたマクロン法

極右にとって、教育、経済、外交すべての点で、家族と伝統の再構成が課題となる。その意味で、フランスの家族と伝統を守るには、EUから離脱しなければならない。「人民」(民衆)という言葉は、本来、極右の言葉ではない。極右は、つねに伝統的フランス人という言葉をモットーとしており、それが小生産者を意味するかぎり、そこから遠い移民や貧困層を救うという議論は後回しになる。

その点で、娘マリーヌが人民に接近したことに対し、父ジャン=マリーが厳しく批判した意味がある。要するに、極右政権はフランスの伝統的家族の復興のための教育、経済成長、外交を望んでも、人民一般の復興などは、二の次だということだ。確かに、今回の選挙でルペン氏を拒否したフランス人は、このことに騙されなかったのだ。

では、大統領になったマクロン氏は、どういった政策を行うのだろうか。マクロン氏について考えるとき、忘れてはならないのは、2015年8月6日に経済相だったときに出された「マクロン法」である。この法律は、マニュエル・ヴァルス内閣の「成長と購買力に関する法」として出されたものであるが、一言で言えば規制緩和であった。たとえば日曜労働の認可、長距離バスの認可など、これまで守られてきて聖域だった規制を撤廃するというものであった。

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