カルビー松本会長「労働時間の減少は必然だ」 働き方改革の旗手が考える日本の課題
今から30年ほど前に内視鏡手術(胆嚢摘出手術)が始まりましたが、その頃は6、7時間必要でした。しかし、外科医の知識・技量が上がるとともに、手術用機械の精度も上がりました。今では内視鏡手術は15分程度で終わるものもあります。個人の慣れ、技量、そして機械の精度が上がることで、外科手術でも劇的に労働時間は減らせるのです。
小売業でもそうでしょう。モノを買う際に人と対面することなく済ませられる機会が増えています。
労働時間が短くなると生じる大いなる矛盾とは?
しかし、機械やAIによって労働時間が短くなると大いなる矛盾が生じます。それは「収入」の問題です。
経営者の視点で考えると、機械でいくらモノを作っても買ってくれる人がいなければ作った意味はありませんし、企業の経営は成り立ちません。そしてモノを買うためにはもちろんおカネが必要です。
つまり、AIや機械によって週15時間労働が達成できたとして、その短時間の労働から今と同じ収入を得られるでしょうか。あるいはAIで人が不要になった分野で失業した人たちも生きていくために収入が必要です。
この問題に対しては、解が見つかっていない。サウジアラビアのように石油が出てきて、それを輸出していればみんなで収入を分け合えるのでしょうが、何もない日本ではどうでしょうか。
機械やAIが出てきたので「みんな働かなくてもいいです」というのはただの物語の世界。現実にはそのユートピアを成立させるような収入の仕組みが必要です。
『隷属なき道』ではその解決方法として、生活保護などのさまざまな社会保障をすべてやめ、その代わりに直接国民全員にたとえば年間150万円なりの現金を支給する「ベーシックインカム」という制度を提案しています。そしてイギリスのホームレスなどに3000ポンド(約45万円)を配った実験など、世界中での事例が紹介されます。
おカネを与えられた13人のホームレスは、酒やギャンブルに使ってしまうだろうという予想に反し、電話、辞書、補聴器などまず自分にとって必要なものを買い求めました。20年間ヘロインを常用していたサイモンの場合、身ぎれいにしてガーデニング教室に通い出した。そして実験開始から1年半後には、13人の路上生活者のうち7人が屋根のある生活をするようになった、というのです。
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