ダイハツ「ミライース」が燃費競争やめた理由 低価格と高性能の両立は、軽自動車で限界に

拡大
縮小

さらに軽自動車初となるコーナーセンサーも装備した。フロント2個、リヤ2個のセンサーを活用して、駐車時などに障害物へ接近すると、距離に応じてメーター内に警告を表示したうえでブザー音が鳴る。三井社長は「ダイハツはこれから、安全・安心を一つの軸にしていきたい。最もベーシックなミライースだからこそ『スマアシⅢ』を搭載した」とその意義を述べる。

コーナーセンサー作動時のイメージ図(写真:ダイハツ工業)

走りやすさも改善させた。三井社長は「燃費を競争するあまり、走りを少し犠牲にしてきた。お客様からも物足りないという声があった」という。初代では発進時や追い越し時の加速に不満が多く聞かれた。新型車ではストレスのない加速を実現すべく、エンジンなどを改善した。

一般的に走行性能を上げようとすると、燃費は落ちる。そのため車両全体で80キロも軽量化。燃費を上げて貯金を作ったうえで、それを相殺する形で走行性能を上げた。

消費者はカタログ燃費を信頼していない

ダイハツの方針転換は燃費競争の終焉を意味している。初代の発売時は東日本大震災後で節約志向が強く、ガソリン価格も高騰する中でHVが耳目を集めていた時期だ。だが超高齢社会が進展する中、昨今は高齢者の運転事故が話題になっている。予防安全技術も当時より進歩するなど状況が大きく変わった。

ダイハツが消費者の要望に関する調査を実施したところ、燃費や価格などの経済性はもはや当たり前のものと認識されていることがわかった。国内の軽乗用車市場の縮小が続く中、スズキの燃費不正も発覚。カタログ燃費への疑念の声も出ており、新たな戦いの軸が安全面や走行性能などに移っていくのは必然だといえる。

だが、新たな付加価値をつけようとすれば価格は上がる。価格重視の軽乗用車はジレンマに陥ることになる。新型ミライースにおいても、スマアシⅢの全車種標準搭載を見送ったのは価格が上がってしまうからだ。スマアシⅢを搭載した最廉価モデルは90万円を超え、搭載しない同じモデルと比べると約6万5000円高い。

新型ミライースの骨格(撮影:梅谷秀司)

さらに燃費向上に向けた軽量化も難しくなっている。今回は車両全体で初代と比べて80キロの軽量化を実現したが、南出洋志・エグゼクティブチーフエンジニアは「限界に近い」と明かす。「軽量化するために樹脂やアルミをより広く採用しようとすると、コストがかかってくる。”軽いけど高い”では、軽ではない」(南出氏)。

電動化も燃費を左右する重要な要素だ。ダイハツは昨年8月にトヨタ自動車の完全子会社となったことで、技術力を上げるべくトヨタへの技術者派遣などを進めている。ただ「電動デバイスに頼ると、価格を上げざるを得ない。だが、価格はそう簡単に上げられない」と松林淳取締役車両開発本部長は話す。

燃費、安全技術、走行性能。どれも向上させるにはコストが重くのしかかる。新時代の競争は、ダイハツやスズキといった軽自動車メーカーにとって悩ましいものとなりそうだ。

冨岡 耕 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT