急成長BAKEは「洋菓子界」の常識を壊せるか 大ヒット「チーズタルト」販売会社の次の一手

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長沼氏は、北海道札幌市を中心に9店舗を営む著名な洋菓子店「きのとや」の創業者長沼昭夫氏の長男。きのとやは母方の祖父が営む製菓業から展開したため、実質的には3代目に当たる。

「父がいつも言う“おいしさの三原則”というものがあります。1つ目がどこよりもいい原材料を使うこと、2つ目がとにかくフレッシュであること、3つ目がどこよりも手間をかけることです」(長沼氏)

きのとや30年の実績がベイクを支えている

札幌市にあるきのとやの本店(写真:読者提供)

ベイク チーズ タルトでは、この3原則を踏襲した商品づくりが行われている。フィリングとなるチーズムースは、北海道産2種類とフランス産の計3種類のチーズクリームをブレンドしている。

北海道の工場で生地の製造を行った後、店舗に直送し、店舗内の厨房で2度目の焼き入れを行い、出来たての商品を提供する。おいしさの重要な要素がフレッシュさであるため、賞味期限は常温で当日、冷蔵庫や冷凍庫に入れれば4日と設定されている。

このように、商品の決め手となる「味」の面で同社のベースとなっているのは、家業きのとやの30年の実績である。

長沼真太郎氏は大手総合商社を経て、実家きのとやに入社。2013年にベイクを立ち上げた(編集部撮影)

長沼氏は、幼い頃から父の跡を継ぐ覚悟はしていたものの、大学では商学を専攻し、起業やITのサークルに夢中になった。いったんは大手商社に就職したという。つまり、製菓を専門に学んではいないのだ。

「『お菓子屋はつまらない』と感じていた頃もありました。でも今は、きのとやの存在は大きいです。商品開発のための市場調査やテスト販売を行うお菓子屋さんが多いですが、きのとやが長年培ってきた経験や知見は、それらに値すると思っています。昨年の自社工場建設までは、きのとやの工場を利用させてもらってもいました。いろいろな意味で『よく利用したなあ』と父にも言われますし、自分自身、感謝しています」(長沼氏)

しかしチーズタルトを年間で3500万個以上も売れる商品にまで育てられたのは、長沼氏流の「売れる3原則」とでもいうべきアイデアがあったからだ。

第1に、1ブランドにつき1アイテムに絞ることだ。これによりオペレーションがシンプルになり、商品力アップに力を集中できる。「そのために商品カテゴリは10人中8人が『大好き』というものでないといけません。これを『8割主義』と私は呼んでいます」(長沼氏)

第2に、工房一体型店舗による、五感に訴えかけるおいしさの演出。鉄板に並んだ焼きたての商品を目で見て、においをかぎ、焼き上がる音を聞き、まだ温かい商品を受け取る。

実はこのアイデアは、あるアクシデントから思いついたものだという。

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