円高警戒?日本株は大型連休中にどう動くか 「駄目トランプ」でも米国に3つの明るい材料

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前述の減税案について、大統領が「過去になかったような大規模な減税案を公表する」と発言した直後には、ホワイトハウス(大統領府)が声明をマスコミに配布した。そこでは、「大統領が言ったことは、(特に新しい大規模減税を行なうといった主旨ではなく)これまでずっと言ってきたことを言っただけだ」と記されていたと報じられている。

ホワイトハウスのスタッフですら、大統領の「大言壮語」に警戒心を持ち、トランプ氏を舞台の後ろに引っ込めようとしているようだ。米政権や閣僚ですら、トランプ氏を箱に入れて騒がないようにさせよう、ということであれば、今後市場が「トランプ発言」に攪乱される恐れが低下する。

最後の三つ目の好材料は、トランプ政権の経済政策があろうとなかろうと、米国経済や企業収益自体は堅調だ、という点だ。経済統計については、3月分の経済統計のほとんどや、先週4月28日(金)に発表された1~3月期のGDP統計が弱かったため、米景気に対する懸念が生じている。

しかし、3月14日の米東海岸を中心とした暴風雪など、天候要因が大きいと推察される。足元発表が進んでいる1~3月期の企業業績についても、IBMなど失望を呼んだ企業もあるが、総じては、S&P500ベースの1株当たり利益は前年比で10%程度の増益が見込まれており、基調は強い。

日本株は割安?ただしGW中の円高に注意

日本国内でも、2016年度(2017年3月期)の決算発表が続いているが、輸出企業を中心に、好調な内容が多い。2017年度の予想利益を用いた予想PER(株価収益率)では、現在の日本株は、安倍晋三政権下でのレンジの中央値より下振れしており、割安感がある。

しかしこれまでは、外部環境の不透明感、とりわけ円相場の先行きに対する不安から、予想PERの計算に用いているアナリストの予想利益の下方修正があるかもしれない、という懸念が強く残り、割安さの主張について確信が持てる投資家が少なかった。

未だに朝鮮半島情勢については、偶発的な不測の事態を含め、予断は許さない。しかし今のところ米国は、中国による北朝鮮への説得工作や、空母派遣などによる心理的圧迫、さらには経済的な一段の締め付けなどにより、戦火を交えることなく事態を収拾する方針であるように見える。

また米ドル円相場も落ち着きを取り戻しており、円高による輸出企業の収益下方修正懸念は薄らいでいる。世界経済の持ち直しにより、日本企業の製品に対する需要も回復し、昨年来、日本からの輸出数量は改善基調をたどっている。円安にならなくとも、円高が進まなければ、日本の輸出企業は増益を維持できるものと見込まれる。こうした点から、予想PERで割安だとの議論が息を吹き返し、今後たとえば夏場にかけては、日本株の上昇が期待できるのではないだろうか。

その一方で、短期的な波乱要因は存在する。それは、ゴールデンウィーク中の円相場動向だ。拙著『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社刊)でふれたが、年内の米ドル円相場の季節変動をみると、14週目(4月)までは米ドル高円安が進むが、19週目(5月)まで米ドル安円高に振れる傾向が存在する。これは、ゴールデンウィーク中の海外旅行のため、個人が4月に外貨を手当てするが、帰国後の5月には余った外貨を円に戻す、という要因があるのだろう。また、日本の機関投資家が休暇を取り、円の売買が薄いなかで、円買いを仕掛ける投機筋の存在もささやかれている。

加えて今年は、5月5日(金)に米国の雇用統計、7日(日)にフランス大統領選挙の決選投票が予定されており、ただでさえ為替相場が荒れそうなところだ。

こうした諸点を踏まえ、連休後まで展望して、今後2週間(1日〈月〉~12日〈金〉)の日経平均のレンジは、ゴールデンウィーク中に円高に振れた場合、連休明けに株価も大きく下振れする恐れがあるが、他は企業収益の堅調さを踏まえて株価も強含むと見込み、1万8800円~1万9500円を予想する。いったん1万9000円を割り込むかもしれないが、その後1万9500円辺りまで挽回する、というイメージだ。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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