イエメンが「空前の人道危機」に喘いでいる シリア報道の陰で忘れられたもう一つの内戦

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母国の現状を訴えるサミル・M・カミース駐日イエメン大使(筆者撮影)

「世界のメディアの関心事はその時々で移ろっていくが、日本の報道は西側(欧米)メディアの見方に影響されていて、記事を読んでコピー・アンド・ペーストではないかと感じることさえある。私に限らず東京に駐在する中東アラブ諸国の大使は、私たちが発する情報ではなく、この国のメディアが欧米の論調に流されることに困惑している」

もちろんイエメン内戦が全く報じられないわけではなく、また、筆者も少しばかり国際報道に携わった経験があるので、“コピペ”という表現にはかなり抵抗がある。しかし、参加した記者のひとりは「欧米メディアがフォーカスするニュースに引っ張られるのは事実。欧米社会で話題になったシリアやイラクのセンセーショナルな写真・映像は日本でも載せやすいが、そもそも日本人の大半はイエメン自体を知らないし、内戦と言ってもニュースになりにくい」と吐露した。これは正直な本音だと思う。

日本のNGOによる難民支援活動

その一方で、カミース大使は「日本はわが国に対するトップクラスの支援国であり、日本の援助に心から感謝する。日本のNGOがジブチでイエメン難民支援に取り組んでいることも知っている。特定の政治勢力を通じた支援ではなく、保健や教育など人々に直接届く援助をお願いしたい」と謝意を付け加えるのを忘れなかった。

シリアやイラク難民支援と比べると目立たないが、(特活)ジャパン・プラットフォーム(JPF)は2015~2018年、加盟するNGO4団体を通じて総額13億円余りの難民・避難民支援事業(一部は予定)を展開中だ。JPF担当者は「周辺国に逃れたイエメン難民は約18万人に上り、海峡をはさんだ対岸ジブチの難民キャンプにも約3万6000人がいる。食糧や生活物資の配布、安全な水の供給、子供たちの保護や教育支援を実施しているが、イエメン国内は日本人が入れないので、現地スタッフに指示して間接的に事業を進めざるをえない。日本の支援者の方々の関心や寄付もシリア、イラクに集中しており、イエメンの人道危機をもっとアピールする必要性を痛感している」と話す。

日本にとってイエメンは大きな貿易相手国ではなく、さしたる利害関係もない。しかし、イエメン研究の第一人者、アジア経済研究所の佐藤寛・上席主任調査研究員は「日本も支持する『テロとの戦い』の一環として、米軍がイエメンで繰り返している無人攻撃機(ドローン)による攻撃で、多数の民間人が巻き込まれている。これが米国への憎悪と自国政府に対する不信感を増幅しており、結果的にイエメンをさらに脆弱化させ、テロの温床にしていることに日本人も気付く必要がある」と指摘する。

私たち日本人にできることは正直言ってあまり多くないが、まずは知らなければ何も始まらない。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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