イエメンが「空前の人道危機」に喘いでいる

シリア報道の陰で忘れられたもう一つの内戦

イエメン国内で重度の栄養失調に陥った幼児=Rawan Shaif撮影(JPF提供)

世界を揺るがした「アラブの春」(2010~2012年)の流れで、イエメンでも30年以上続いたサレハ長期政権打倒を訴える反政府運動が広がり、同大統領の退陣を受けて、ハディ副大統領が2012年2月、暫定大統領に就任した。しかし、サレハ前大統領と連携するイスラム教シーア派の武装組織「フーシ派」が勢力を拡大し、首都サヌアに侵攻。2015年1月に暫定政権が崩壊し、ハディ暫定大統領は南部の港湾都市アデンに逃れた。

ハディ暫定大統領を支援するサウジアラビアを中核としたアラブ連合軍が同年3月以降、イランの支援を受けたフーシ派への空爆を開始し、軍事衝突が本格化。イエメンを拠点とするイスラム過激派「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)も絡んで情勢が複雑化した。ドナルド・トランプ米大統領は今年1月の就任後間もなく、同政権初の軍事作戦としてAQAPを急襲したが、民間人が巻き添えになるなど失敗したと伝えられる。

本稿の主眼はイエメン内戦の経緯ではない。問題は2015年以降の民間人の死者が1万人以上、難民・国内避難民は最大450万人に上り、冒頭に記したような大規模な人道危機が発生していること。とりわけ1700万人が定期的に食糧を得られず、乳幼児を含む220万人の子供が急性栄養失調、うち50万人近くが重度の栄養失調で死にかけていること。それにもかかわらず、この悲劇に誰も見向きもしないことだ。

シリアと比べてイエメン内戦がほとんど注目されないのはなぜか。

死者や難民・避難民の数はシリアのほうが多い

戦争や内戦のニュースは、死者や難民・避難民の数、つまり“悲惨さの規模”が扱いを決めるのは致し方ない。イエメン(人口2700万人)とシリア(人口2300万人)の内戦を比べると、難民・避難民はイエメンの450万人に対しシリアが1150万人、死者はイエメンの1万人超に対しシリアは三十数万人におよぶ。すでに6年続くシリア内戦のほうが注目されるのは当然ともいえる。

しかし、別の要素もある。『「目立つ戦争」と「目立たない戦争」がある理由』(ニューヨーク・タイムズ/東洋経済オンライン)は、米国人の関心を集める紛争は「米国の国益への直接的な影響や(中略)善人と悪人の対立というわかりやすく感情に訴える枠組みが必要」と指摘。イエメンの場合、対立関係が複雑なうえ、空爆で民間人を殺傷しているサウジアラビアは米国と経済・安全保障面で関係が深く、メディアも世論も特定の“悪者”を声高に糾弾できる構図になっていないと分析する。

こうした傾向は日本の報道にも直接影響を与える。イエメンへの関心を喚起しようと、在京イエメン共和国大使館は4月19日、大手新聞社や通信社、テレビ局などの数人の記者を招いてメディア懇談会を催した。いずれも中東情勢に関する見識や取材経験が豊富な記者ばかりで、イエメン情勢のこともよく知っている。そこに中東が専門ではない筆者も縁あって招待された。

筆者はサミル・M・カミース大使に「日本でもシリアばかり注目されて、イエメン内戦の報道が少ないと思いませんか」とあえて聞いてみた。2014年7月に着任したカミース大使は「他所の紛争と比べても仕方ないが」と前置きしたうえで、こう答えた。

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