北朝鮮作家の「告発本」に書かれていること 北の生活はどれほど苦しいのか

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都は、『告発』の原稿を見せる相手を厳しく管理している。最近、ニューヨーク・タイムズ紙の記者に見せてくれたが、写真撮影は認めなかった。その筆跡から、北朝鮮政府がパンジを特定するおそれがあると考えたのだ。

さらに念には念を入れて、都は『告発』の登場人物や舞台の名前を変えたという。「架空の名前にしてあるとは思うが、万が一ということもある。パンジが有名になるほど、彼の身の上への心配も大きくなる」。

国際ペンクラブ北朝鮮亡命作家ペンセンター(ソウル)のキム・ジョンエ事務局長によると、彼女をはじめ韓国在住の脱北作家が『告発』を読み、北朝鮮人が書いたものという結論で一致したという。

たとえば、『告発』には北朝鮮人しか書けない表現があると、キムは言う(韓国版には北朝鮮でしか使われない表現に脚注が付いている)。またその構成も、「シードセオリー(北朝鮮の指導原理を中心としたストーリー展開)」を守っているという。ただしパンジは、その指導原理を批判する形で使っているのだけれど。

暗闇に生きる運命

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パンジとは本人が選んだペンネームだと、都は言う。実は743枚の原稿用紙には、7本の短編のほかに50篇の詩が含まれており、その1つにこんな一節があるという。パンジは「暗闇の世界でだけ輝ける運命だ」と。

『告発』で描かれる北朝鮮では、女性たちはたとえ夫が政治犯収容所に入れられていても、「父なる首領様!」と泣き叫んで金日成の死を悲しむようプログラムされている。

「目と鼻が万里」と題された短編では、母親が死にかけているのに、旅行許可証がないため会いに行けない男性の苦悩が描かれている。彼は自分を、「クモの巣にひっかかったトンボ」になぞらえる。

「『告発』は、北朝鮮の人権状況に関する究極の教科書だ」と都は語る。「北朝鮮では『普通の生活』が奴隷の生活に等しいことを教えてくれる」。

(執筆:Choe Sang-hun記者、翻訳:藤原朝子)

© 2017 New York Times News Service

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