北朝鮮作家の「告発本」に書かれていること

北の生活はどれほど苦しいのか

都に会った女性は、興味深い話をはじめた。北を出る前に親戚に別れを告げに行ったところ、ある親戚から、自分がひそかに書いてきた小説を持っていってほしいと頼まれたというのだ。それがパンジだった。だが女性は断った。もし捕まったら、彼女も、パンジも、家族も労働キャンプ送りは避けられない。処刑されるおそれもある。

そこで都は女性からパンジの本名と、北朝鮮の住所を聞き出すと、中国に住む朝鮮民族の男性を雇った。観光客として北朝鮮を訪問して、ひそかにパンジに連絡を取ってもらおうというのだ。こうして2013年、『告発』の原稿は金日成(北朝鮮の建国の父)を賛美するプロパガンダの間に隠されて、ひそかに持ち出された。

発表に二の足を踏んだ韓国の出版社

都は韓国でも有名な北朝鮮の人権活動家で、韓国政府の「民主平和統一諮問会議」のメンバーでもある。その都が持ち込んだ原稿でも、韓国のほとんどの出版社は『告発』の出版を拒否した。パンジが北朝鮮在住の作家であることを確認しようがなかったからだ。

都は難しい状況に追い込まれた。できるだけ多くの情報を提供して、この話がでっちあげでないことを証明したかったが、それはパンジの身を危険にさらすことになる。彼の身元が北朝鮮政府に特定されて、報復を受けないようにするには、パンジに関する情報は最小限に抑えなくてはならなかった。

パンジは1950年生まれで、政府の御用組織である朝鮮作家同盟に所属する作家――都が明かせる情報はそれだけだった。

結局、『告発』は2014年にインターネットメディア「趙甲濟.com」に発表されたが、大きな注目を集められなかった。そこで都は、外国の出版社に『告発』を売り込んだ。その結果、昨年フランス語訳が刊行されて大きな話題となったのをきっかけに、各国語訳が次々と刊行された。

仲介者が昨年6月に調べた時点では、パンジは安全に暮らしており、自分の著書が世界中で出版されていることを知っていた。都は、北でも受信できる韓国のラジオ番組によくゲスト出演しており、パンジが聞いてくれることを祈りながら、『告発』の最新情報を発信していた。

これまでのところ、『告発』の印税収入は1万ドル。それを含めあらゆる利益は、パンジの家族と、韓国に住む脱北作家の著書をサポートするために使われるという。

次ページ脱北作家たちが次々と「お墨付き」
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