子どもは親の虚栄心を見抜いている! 娘が勉強せず、不登校。どうすればいいですか?

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

こう考えると、不登校やひきこもりとは、子どもたちの「これまでの全人生に対する抵抗」とみなしてもいいのですから、親はそう簡単に「差し当たり」の解決を求めてはなりません。つらいかもしれませんが、これまでの娘さんの育て方、娘さんとの関係をごまかさずに、とらえ直すことが最も重要なことではないでしょうか? 私も大学生の頃、不登校であり、かつ、ひきこもりでした。世間すべてが敵に見えましたが、ずっとたぐっていくと、そこには最も巨大な敵として親がいました。社会的成功を絶対視し、虚栄心にあふれ、世間体にかまけている親を、徹底的に滅ぼしたかった。自分を破滅させても、親の硬い価値観を崩したかった。

親は子どもに対して全責任を負うべき

この段階で、親がおろおろして、あるいは身構えて、「特に悪く育てた覚えはない」とか「あんなに大切に育てたのに、可愛がったのに」という態度(考え方)を取り続けるかぎり、ひきこもりの子どもは立ち直らないでしょう。考えてみれば、理不尽なことです。私は子どもの側がつねに「正しい」と言いたいのではなく、親はいかなることがあっても、子どもに対しては(特に成人するまでの)全責任を負うべきだと言いたいのです。何しろ、親は子供を産んだのですから。「なんで、ぼく(私)を産んだんだ!」という身勝手な(親にしてみれば身を切るほどつらい)叫び声に対しても、真剣に向き合う必要があります。

私がひきこもり中に布団の中で望んだこととは、虚栄心で固まった両親が世間からも親戚からも軽蔑され、うめき声を上げればいいということでした。どこまでも世間体を守りながら、息子をどうにかしたいと考えている両親を激しく憎んだ。父親が最も恥ずべき犯罪(たとえば痴漢)でも犯してくれれば、あるいは母親が寝込んでしまって家中ホコリだらけ汚れ物だらけで廃屋のようになってしまえば、私はすぐさま立ち直ったことでしょう。

相談者に向かって、こうしたことをせよと勧めるのではありません。今、自分は人生の理不尽に突き当たっている、それをきれいごとで解決したふりをしてくれるな、と娘さんは全身で叫んでいるのだと思います。

ということで、一義的な解決はありませんが、まず相談者が、「努力すれば必ず報われる」とか「人それぞれの長所はある」とか「学力だけが人生ではない」とか……の(たぶん)自分でも信じていないきれいごとを語ること、いや、考えることを体内から追い出して、真剣にこの人生のすさまじい理不尽さと真正面から向きあう姿勢を取るなら、たぶん娘さんの態度も変わってくることと思います。まだ、高校3年生でしょう。気長に考えてください。あと20年かけて「解決」してもいいほどの問題なのですから。最後に、いかに親子関係が難しいか、いかに私が親子関係で苦しんできたか、参考までに私の本を挙げますので、読んでみてください(『カイン』新潮文庫、『人を愛することができない』角川文庫、『異文化夫婦』角川文庫』)。

中島 義道 哲学者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかじま よしみち / Yoshimichi Nakajima

電気通信大学元教授・哲学塾カント主宰
1946年福岡県生まれ。77年東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻修士課程修了。83年ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了、哲学博士。専門は時間論、自我論。2009年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授を退官。現在は「哲学塾 カント」を主宰し、延べ650人が参加した。著書は『働くことがイヤな人のための本』『私の嫌いな10の人びと』『人生に生きる価値はない』(以上、新潮文庫)など約60冊を数える。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事