値上げ成功でも、喜べぬ鉄鋼業界の憂鬱 価格是正の好機だが、中国の動向が影を落とす

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だが、7月に入ると中国の状況は一転。18日までの段階で異形棒鋼は前月比2.1%、熱延鋼板は同1.5%上昇。底打ちの兆しが見える。

背後にあるのは、流通在庫の減少だ。鋼材価格のあまりの下落によって採算が悪化した現地の鉄鋼商社はメーカーからの仕入れを手控え、在庫圧縮に動いた。3月には過去最高の2200万トンまで積み上がった流通在庫は3カ月連続で減少し、6月には1690万トンまで圧縮された。

秋以降は中国で市況悪化も

ただ、流通在庫の減少に対し、生産量は一向に減っていない。3月以降の粗鋼生産量は過去最高水準の6500万トン前後に張り付いたまま。これは日本の年間消費量に匹敵する。一方、現地需要の伸び幅は生産量に比べると小さい。

また、7月の市況反転は毎年夏場に多く行われる定期改修に伴う、一時的な現象だと指摘する声もある。「夏にいったん減少した在庫も、定期改修が終わると再び増加し、市況が悪化するという流れが、ここ数年は定着している」(業界関係者)。例年どおり、市況が再び悪化に向かえば、中国鋼材が日本国内に流入し、改善に向かい始めた建材市況に冷や水を浴びせるおそれもある。

そもそも、自動車用鋼板の価格交渉において、製品に転嫁できたのは原料上昇分の一部だ。原料価格の上昇幅は鋼材1トン当たり1万5000円程度。1万円の値上げでは取り戻しきれていない。新日鉄住金の14年3月期経常利益は前期比4倍弱の3000億円となる見通しだが、リーマンショック前の07年3月期に新日本製鉄1社で稼ぎ出した5976億円と比べると、なお低水準だ。

今後は電機や造船などとの価格交渉が大詰めを迎える。これらの業界は、自動車以上に海外勢との競争が激しい。さらなる価格是正をどこまで進められるか。2年ぶりの朗報も手放しで喜ぶ余裕はない。

週刊東洋経済2013年8月3日号

小河 眞与 東洋経済 記者
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