高級腕時計ブランドの「灰色市場」は必要悪か オンラインショップ「大幅値引き販売」の裏側
需要減退であっても、生産を抑えることは困難だ。理由の一端として、腕時計は、段階を追って組み上げられるため、製造に時間がかかり、製造計画が2年も前に確定している場合が多いことが挙げられる。
高級品をぜひとも必要としている人はいなくても、各ブランドは、顧客が贅沢な店舗で精巧に仕上げられた腕時計を目にし、実際に触れてみることでその「物語」に惹きつけられたなら、それを手に入れたくなり、価格など二の次になってしまうことを経験上知っている。
流通するブランドにばらつき
販売好調期には、メーカー側は売上げの20%を利益として確保し、販売店は最大45%という魅力的なマージンを得ることができた。
だが、ビジネスが細ってきても、メーカーは公式販売店が大幅な値下げを行うことを許さなかった。ブランドイメージが傷つくことを恐れたためだ。こうした方針が、資金繰りに困った販売店の背中を押して、グレーマーケットに商品を流すようになった可能性があるという。
スイスの腕時計輸出は昨年10%低下。さらに今年に入って最初の2カ月で8%減少している。
グレーマーケットでは、質素で小規模な店舗、もしくはオンラインで販売が行われ、商品のほとんどを在庫として持つことなく、注文があった場合にのみ調達している。
前出のランドール氏によれば、グレーマーケットに製品を流さないようにする努力は、ブランドによって異なるという。最も調達が難しいのはパテック・フィリップとリシャール・ミルで、生産量も厳しく管理しているという。やはり独立系ブランドのオーデマ・ピゲは、直営店を通じて特定のモデルだけを流通させている。
「(スウォッチ系列の)オメガや(LVMH系列の)タグ・ホイヤーは、いつでも簡単に仕入れられる」とランドール氏は言う。
米グレーマーケットで活動する販売業者もこれに同意し、リシュモン系列のジャガー・ルクルトとヴァシュロン・コンスタンタン、それにスウォッチ系列のブレゲも、仕入れは容易だと語る。
米国は世界で2番目に大きいスイス製腕時計の市場だ。この国には「Jomashop.com」や「AuthneticWatches.com」、「PrestigeTime.com」などのオンライン販売サイトがあり、グレーマーケット向け商品の重要拠点となっている。