「南武線スマホ紛失」海外の発見者は人生激変 日本とジャカルタの懸け橋としてTV出演も

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オマットさんの結婚披露パーティでの記念写真。左からオマットさん、野田さん、新婦のディアンさん。額に入っているのはビーズで作られた205系の絵(筆者撮影)

3月5日、彼の実家があり、KCJ最大の車両基地もあるデポック(Depok)という街で盛大に行われた結婚披露パーティには、入れ代わり立ち代わりで300人以上が来訪し、地元に暮らす日本人鉄道ファンも多くお祝いに駆け付けた(ちなみに、インドネシアの国民の多くはイスラム教徒だ。その結婚パーティは10時間を超える長丁場となることが普通で、今回の式もそうだった)。

パーティ会場はKCJの線路のすぐ横に設けられていたのだが、そこで筆者は電車が通るたびに警笛が聞こえてくることに気がついた。

「ねえ、オマットさん。電車が通るたびに警笛が聞こえるんだけど……」と尋ねたところ、横から職場仲間が「これ、お祝いで仲間の運転士たちが鳴らしているんだよ」。

鉄道が日本とインドネシアを結び付けた

会場の脇を走る車両が線路のつなぎ目をたたく音も、心なしか間隔がゆっくりだ。「きっとスピードを緩めているのでしょう」と別の仲間がほほ笑む。インドネシア式の列車の遅延も、この日だけは許容したくなる雰囲気だ。会場では、警笛を鳴らした直後なのだろうか、乗務の合間に制服のままでお祝いにやってきた運転士たちの姿も見掛けた。

『なぜ南武線で失くしたスマホがジャカルタにあったのか』(集英社)には本記事を含め、東洋経済オンライン「鉄道最前線」の記事66本を収録しています(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

異国での結婚式に初めて参加する野田さんも、驚きを隠さない。「オマットさんの親戚の皆さんに大歓待を受けました。もともとは僕の失敗なんですが、今はスマホを落として本当によかったと思っています。まったく縁のない国だったインドネシアでこんなに歓迎されるなんて、夢にも思っていませんでしたから……」。

「中古車両からスマホ発見」という予想外の出来事から、鉄道事業を通して日本とインドネシアの両国が深く結び付いていることが知られるようになった。現在、同市では市内中心部を走るMRT(ジャカルタ都市高速鉄道)の建設が、日本の企業体によって進められている。在来線ジャカルタ―スラバヤ間の高速化事業にも日本は積極的にセールスしており、さらには安倍晋三首相自らインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に事業参画への意欲を示している。

日本とインドネシアの鉄道技術や知識、気風(そして、ちょっとしたゆとり)。双方のよいところが混じり合うことで、鉄道をめぐる風景がますます幸せなものになることをこれからも期待したい。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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