アパートの「造り過ぎ」はなぜ止まらないのか 空き家だらけになる未来を放置すべきでない

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しかし、そもそも日本の住宅政策は、なぜこのようなことになってしまったのだろうか。イギリスの空き家率は3~4%、ドイツ1%前後、アメリカでも11%弱にすぎず、増加傾向にあるわけでもない。シンガポールは5%弱だ。わが国の空き家が増加する最大の理由は、とりもなおさず「新築の造りすぎ」にほかならない。

OECD(経済協力開発機構)に加盟できるレベルの、いわゆる普通の国の多くが「住宅総量目安」「住宅供給目標」といった指標を持っている。総世帯数、総住宅数や住宅の質の現状を踏まえ、今後5~10年間にどの程度の住宅を壊し、新築を建設するかという目安である。この目安に合わせ、税制や金融をコントロールしつつ、各自治体レベルで都市計画を設定する。だから無尽蔵に空き家が増えることはない。

景気対策のために需給を無視

ところが、日本にはこうした目安がいっさいなく、ただ景気対策としての住宅政策が行われてきた。新設住宅着工戸数が減れば景気の足を引っ張るとして、つねに新築住宅促進政策が過剰に行われてきたのだ。全体計画が存在せず、住宅数について誰も管理していない状況なのだから、空き家が増えるのも当然だろう。高度経済成長期には、ただただ新築の建物を造りまくればよかったが、もはや必要以上に造る意味はないどころか、空き家といった課題を生み出すフェーズでは、市場全体のコントロールが必要なはずだ。

国内経済において、ある一定期間に財やサービスがどのように産業間を循環していくかを示す「産業連関表」によれば、日本では新築住宅建設には2倍以上の経済波及効果があるとされている。たとえば3000万円の注文住宅が1戸建てられれば、資材の発注や、職人への給料の支払い、そしてそれらが消費に回るなどして6000万円の効果があるというわけだ。しかし本当にそうだろうか。

実際にはそんなに効果があるはずがない。人口減少・世帯数減少局面では、新築が1戸建てられれば、その分以上に空き家が発生する。この空き家が放置されれば、倒壊や犯罪の温床となるリスクが生まれ、景観として街の価値を毀損する。こうした外部不経済がもたらすマイナスを差し引いたら、はたしてその経済波及効果はいかほどか。また自治体の行政効率も大きく悪化する。

こうした点について抜本的な手を打たないのは、現政権の不作為といっていいだろう。しかし、いきなり他国のような目安を設定してしまうと、いかに新築住宅を造りすぎているのかが白日の下にさらされ、業界の抵抗も強いだろう。新築住宅建設産業も、すぐに態勢変更はできないだろうから、国が5年程度の行程表を示し、段階的に新築住宅数を減らしていく道筋をつくるのがよいだろう。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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