東芝、「怒号と疲労」の株主総会でみえたこと 株主は「大企業病は変わっていない」と指摘

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3月29日、WHのチャプター11申請を発表。足早に会見場を後にする綱川智社長(撮影:尾形文繁)

「誰が推進して誰が契約書を子細に読んだのか。優秀な弁護士はいたのか」という問いに、綱川社長は「M&Aについては確かに反省しないといけない」と答えた。しかし、引き取った法務担当の櫻井直哉・執行役上席常務は「(買収の)主体はWH。会計事務所や法律事務所など専門家チームが査定し、適切とWHが確認した。その提案を所管する社内カンパニーが審議した後、コーポレートに上程して、経営会議で執行側の決裁を取り、その後、取締役会で決裁した。意思決定のプロセスとしては適正だった」と手続き論に終始した。

メモリ事業の分社は承認

聞きたかったのは手続論ではないはずだ。巨額損失発生のリスクを誰かが認識していたのか、認識すらしていなかったのか、社内ではどう評価していたのか。そこを解明しない限り、同じ間違いを繰り返す不安が消えないからだ。

この日の議案だったメモリ事業の分社は無事に承認された。分社・売却が債務超過を解消する唯一の手段であることが明白だったせいか、分社に伴うリスクや売却で債務超過を解消できるかといった質問があったが、強行に反対する声は聞かれなかった。

「ご意見ありがとうございます」「ウソのない体質を、という言葉を胸にがんばっていきます」と綱川社長は26名の株主からの質問に時折、言葉を詰まらせながら低姿勢で応じ続けた。

長時間のやりとりに疲れ果てたのか、会場は徐々に静かになっていった。

総会後、堅い表情で帰路を急ぐ株主の数名に話を聞いた。

70代の株主は「なるようにしかならない。社長は低姿勢だが、ほかの役員はふんぞり返っているね」とあきらめの表情で語った。別の株主は「長かった」と言った後、「それなりに説明はあった。メモリの売却も最善の策だが、それで再生するかはわからない」

自らが経営者だという50代の男性は「経営陣に対しては”無能”の一言。西田社長時代から総会に出ているが、大企業病は変わっていない。社員にもやはり責任はあると思う。会社全体に甘えの構図がある」と指摘した。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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