ネットで「炎上」した痕跡は2度と消せないのか Googleの検索結果を操作できる仕事がある?

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しかし、ワシントンD.C.への旅行から4週間後、状況は一変する。そのときレストランでジェイミーと互いの誕生日を祝っていた彼女は、携帯が頻繁に震えるのに気づいた。気になって見てみると、フェイスブックの例の写真に大量のコメントがつけられていた。

「リンゼー・ストーンは、軍や、戦場で亡くなった兵士を侮辱している。けしからん」
 「死ねこのブス」
 「地獄へ落ちろ」
 「人間として最低」
 「国のために犠牲になった人たちに敬意がないとは」
 「レイプされて、その後、刺し殺されろ」
 「知り合いにLIFEの職員がいるから通報した。すぐにクビになるだろう」
 「このバカなフェミニストを刑務所へ送れ」

などである。「この程度のジョーク投稿で、1人の人間の将来が台なしになるようなことがあってはならない」という擁護のコメントもあるにはあったが、ごくわずかだった。

長い間ジョーク投稿をしていて何も起きなかったのに、突然、炎上した理由はストーン本人にもよくわからない。ただ、彼女が無防備だったのも確かだ。投稿を見られる範囲を友人のみに限定するといったこともしていなかった。だから、ほんのちょっとしたきっかけで多くの人々の目に触れてしまったのだろう。

炎上の翌日にはマスコミが取材に来た。テレビカメラも来ていた。父親が応対に出て、ストーンが決して悪い人間ではないことを話した。ただ、そのとき、父親は手にたばこを持っていて、家で飼っていた犬もついてきていた。そのせいで視聴者の目には、ストーンの家族がとても田舎者で変わり者に映ってしまった。人里離れた場所で番犬を飼って、他人との接触を断って暮らしている変わり者の家族、しかも今どき、喫煙もしている、そんな印象になったのである。

LIFEには、ストーンを解雇するよう要求するメールが殺到した。LIFEは結局、彼女を解雇した。ストーンは職を失い、友人も知人もすべていなくなった。彼女はそれ以来、鬱になり、不眠症にもなって、1年間はほとんど家から出ない生活を続けることになった。

リンゼー・ストーンは再び職に就こうとするが、求職してもどこからも返答がない状況が続いた。インターネットで彼女の名前を検索すると、問題の写真はすぐ見つかるし、「戦士の墓を冒瀆する写真を撮った女性、勤務先の団体が解雇し称賛される」という見出しの記事がヒットするのだ。

しばらくしてどうにか、自閉症の子供を介護する職を得ることができたが、その後も彼女はずっと不安を抱えていた。勤務先の上司が自分の名前をグーグルで検索したら何もかも終わりだと思っていたからだ。毎日の仕事はとても楽しいが、いつも不安にさいなまれている。

ストーンは言う。「あの一件で、私のものの見方は大きく変わりました。あれ以来、私は誰ともデートをしていません。新しい人と知り合いたいとも思えないんです。あのことを知っているんじゃないか、知ってしまうんじゃないかと心配になるからです」。

一般に「インターネットに何かを書き込めば、それはペンで何かを書いたのと同じ」と言われる。つまり、決して消すことができず永遠に残る、ということだ。たとえばリンゼー・ストーンが問題となった元の投稿を消しても、その頃には誰かがコピーして拡散しているため、ほとんど意味はない。その後も検索すれば簡単に見つけることができる。ストーンのような人が完全に立ち直るのはまったく不可能に思えた。

グーグルの検索結果を操作する商売がある!?

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だが、筆者はふとしたきっかけから、グーグルの検索結果を操作することを商売にしている人間がいると知った。ある人についてのプラスの情報を大量に供給することで、過去のマイナスの情報が検索結果に出ないようにするというサービスである。少なくとも検索結果の上位には出ないようにする。ほとんどの人は上位の結果しか見ないので、それで事実上、消したい過去をほぼ消すことができるというわけだ。たとえば、リンゼー・ストーンなら、アーリントン国立墓地でのジョーク写真を検索結果からほぼ消すことができるのだ。

そこで筆者は、この種のサービスをしている業者に接触した。誰か特定の人を例に、具体的に仕事をどう進めるのかを見せてほしいと頼んだところ、ついに承諾を得た。サンプルとして選ばれたのが、このリンゼー・ストーンだった。彼女は特別に無償で、彼にグーグルの検索結果を操作してもらえることになった。

(翻訳・構成:夏目 大)

ジョン・ロンソン ジャーナリスト/作家

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じょん・ろんそん / Jon Ronson

ロンドン在住。コラムニストとして活躍後、TVのドキュメンタリー番組を多数制作し、高い評価を受ける。ネオナチやKKKなどの過激思想家にインタビューした『彼ら』(未邦訳)で作家デビュー。邦訳された著書に『実録・アメリカ超能力部隊』(村上和久訳、文春文庫)、『サイコパスを探せ!』(古川奈々子訳、朝日出版社)がある。

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