「しな鉄」が軽井沢駅に遊園地を開設するワケ アウトレットに対抗、「旧軽」と鉄道がタッグ

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避暑地として発展した軽井沢は、美しい自然に囲まれてのんびり過ごす大人の街というイメージがある。子供向けの遊園地を造ってイメージを損ねることはないのだろうか。こんな質問を玉木社長にぶつけてみたところ、明確に否定された。

理由は1995年に駅の南側に開業したアウトレット「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」の存在だ。季節を問わず多くの買い物客が自動車や新幹線に乗ってやってくる。軽井沢駅前に古くから広がる観光・商業エリア「旧軽井沢」に対して、アウトレット周辺は「新軽井沢」と呼ばれる。軽井沢町が2012年に実施した調査では旧軽と新軽の来訪者数はほぼ同数。50~60代では旧軽の人気が高いが、40代以下では新軽のほうが高い。北口を起点とした旧軽の地盤沈下はぜひとも避けたいところだ。玉木社長は「軽井沢町も今回の旧駅舎記念館を活用した北口活性化を待望していた」と言う。

またアウトレットにやってくる家族連れも多いが、アウトレット内で子供が遊べる施設は決して多くはない。「子供が楽しめる場所があれば、北口に多くの人を呼び込むことができる」と玉木社長はにらんだ。この遊園地のターゲット層は6歳程度の子供たち。水戸岡氏も「明確に子供をターゲットにすることで、親や祖父母もついてくる」と言う。うまくいけば、遊園地をきっかけとして、軽井沢の北側にたくさんのファミリー客を呼び込めるかもしれない。遊園地で遊ぶことで子供たちが軽井沢旅行を「楽しかった思い出」として記憶してくれれば、長期的にも有益に違いない。

軽井沢観光客の7割は自動車に乗ってやってくるといわれている。当然ながら、しな鉄を利用することなく帰ってしまう。玉木社長はそれが口惜しくてならなかった。その打開策として考えたのが、観光列車「ろくもん」に乗って地元産のワインを楽しむワイン列車。自動車の運転手は運転中にお酒を飲めない。だったら、列車に乗ってお酒と食事を楽しんでもらおうというアイデアだ。

地元との一体化、ワイン列車が好例

ワイン列車に乗車した水戸岡鋭治氏(左端)、玉木淳社長(中央)、玉村豊男氏(右から2番目)(筆者撮影)

駅ナカ開発の発表後にワイン列車の試乗会が行われた。車内にはワインの生産者やシェフが乗り込み、地元のワインや食材の長所を懸命にアピールしていた。停車する駅でも地元の人たちがホットワインや食材でおもてなしをしていた。

ろくもんの製造費は1億円強。JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」の製造費30億円にかなわないのは当然としても、他のJR九州の観光列車と比べても低く抑えられている。それでも料理、お酒、そして地元のおもてなしなどを総合的に考えることで、「ななつ星を除けば、ろくもんは全国の観光列車のナンバーワン」と、水戸岡氏は太鼓判を押す。記者が「リップサービスですか?」と確認したが、「本当です。書いてもいい」と言い切った。同乗していた長野県在住のエッセイスト・玉村豊男氏も「7の次は6。(水戸岡氏の発言は)当然でしょ」と言って、周囲の笑いを誘った。

豪華な車両だけ造っても観光列車は成功しない。地元が一体となって観光列車を盛り上げられるかどうかが成功のカギを握る。遊園地にも同じことが当てはまる。ワイン列車のように地元が積極的に運営に参加すれば、遊園地が軽井沢の町を変える起爆剤になるかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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