「英国の新幹線」が日本の道を昼間走った理由 「地元の子供に見せたい」と、実現に向け奔走

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市によると、この日集まったのは3万人。市の人口の半分以上に相当する。観覧エリアには父親に肩車された小さな子供もいれば、杖を握ったおばあさんもいる。鉄道ファンでない人も魅了する見逃せないイベントなのだ。

14時ジャスト。「列車は笠戸事業所を定刻どおりに出発しました」というアナウンスに続き、上空でヘリコプターが舞う音が聞こえると、観覧エリアにどよめきが起きた。しかし、列車が姿を見せるのはおよそ30分後だ。しかも出発時刻の14時を過ぎても観覧エリアには人がどんどん集まってくる。歩道は立錐の余地もなく、車道に押し出される人も出てきた。「危ないので下がってください」。交通整理を行う警官の声が悲鳴のように聞こえた。

「押すな」「見えない」という観客の怒声がピークに達した頃、パトカーと先導車に続き、トレーラーに牽引された車両がようやく姿を見せた。交差点に差し掛かると、トレーラーはいったん右側の対向車線に入って、そこから大きく左折を始めた。全長25メートルの巨大物体の動きに「おおーっ」という歓声があちこちから上がった。

もう「したまつ」とは呼ばせない

曲がりきった車両は下松第2埠頭へ向かっていった。時間にして1分足らず。「1両だけ?」という声もあったが、ほとんどの観客は大満足の様子だった。日中の陸走自体がめったにないことだし、しかもそれが英国向けなのだから。

今回のイベントをきっかけに下松がモノづくりの街として全国に知れ渡るようになってほしい。これが国井市長の願いだ。「もう“したまつ”とは呼ばせないぞ」と国井市長は満面の笑顔で語る。

下松の知名度を高めるには陸走を1回限りのイベントで終わらせず、継続的に行うことが必要だ。しかし、「手続き的には今回ぎりぎりでこぎ着けた。またやるのは難しい」。国井市長の顔が途端に渋面になった。だとしたら、今回のイベントを目の当たりにした市民たちが、下松のモノづくりの真髄を全国に伝えていくしかないだろう。

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