「オバマケア」が機能不全に陥っている理由 これは理想的な国民皆保険ではない

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事実、共和党がオバマケアに反対した理由の1つには、「施しは人間の自立を奪う」という主張があった。貧困層への最大の救済は雇用であるという共和党の考え方には、個人的には賛成だ。特にCさんのような人は誰かに保障してもらうのではなく、自ら働くべきだろう。

また、「どのように救済するか」についても、Aさんの例を見れば、オバマケアの仕組み自体に問題が山積みなのは明らかだ。オバマケアは、その成立の過程で、最初にオバマ前大統領が語った理想とは、大きくかけ離れてしまったのである。だから、「反対し続けた共和党によって、貧困層救済というオバマ前大統領の崇高な思いは打ち砕かれた」と考えるリベラルはたくさんいる。

中間層に広がるオバマケアへの不信感

しかし、オバマケアを構築する際にアドバイザーを務めたマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョナサン・グルーバー教授が、「オバマケアは増税政策だった」という発言をしていること(2014年11月にCBSニュースが報道)や、それを裏付けるかのように、この政策に盛り込まれた21項目の新しい税制度により、結果的に向こう10年間で、5兆ドルの増税が可能になるという事実は見逃せない。こうしたカラクリが明らかになればなるほど、中間層を中心にオバマケアへの反対は加速していったのだ。

オバマケアに悲鳴をあげた中間層は、これ以上の増税は耐えられない。おそらく保障がしっかりとしている大手グローバル企業や、政府で働いているような人は、中間層であっても切羽詰まった感覚はないのかもしれない。だが、中間層の大多数であろう中小企業で働く人や、個人事業主にとっては、増税は死活問題だ。「明日は自分も貧困層に転落するかもしれない」という不安を抱えながら、毎日必死という人も大勢いる。また、貧困になってしまえば、政府が助けてくれるという誘惑に負けてしまっては、一生そこからはい上がれないと、自らを鼓舞して努力を続けている人も。

中間層は、米国の屋台骨だ。そこが崩れては、国家は成り立たなくなるだろう。オバマケアの欠陥にメスを入れようとしているトランプ大統領。批判が絶えないトランプ政権だが、オバマケアにはじまり、機能不全を起こしているさまざまな社会の仕組みに対し、新しい政権に期待を寄せる国民の声は、実は「小さくない」のである。

ジュンコ・グッドイヤー Agentic LLC代表、Generativity Lab代表

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Junko Goodyear

アメリカ在住。青山学院大学卒業。日本にて約20年の企業経営のち、現職。日本企業のアメリカ進出、アメリカ企業の日本進出のコンサルテーション&サポートほかを行っている。シアトル近郊最大の子供劇団のひとつ『Kitsap Children’s Musical Theatre』顧問を務めながら、次世代継承と・社会還元共有型マーケティングを考える『ジェネラティビティ・ラボ』も主宰している。

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