安倍政権の財政規律を判定する3つの試金石 市場動向を読む(債券・金利)
それでも市場で凍結・先送りの憶測が消えないのは、筋金入りの上げ潮派である安倍首相の『できれば先送りしたい…』という本音が見え隠れしているからだろう。7月3日の党首討論では『(増税の可否は)足元の状況を見ながら適切に判断する』と言葉を濁した。昨日午後の記者会見でも、『デフレ脱却、経済成長と財政再建の両方の観点からしっかり判断していく』と繰り返すにとどめた。
また、アベノミクスの指南役である浜田宏一内閣官房参与(米エール大名誉教授)が引き続き増税反対を安倍首相に説いていることも無視できない。7月13日の講演では『消費増税は日本経済にかなり大きなショックになる』と警鐘を鳴らした。さらにメディアインタビューでも『極めて慎重に判断すべきだ』と語りかけている。
確かに、1997年4月の前回税上げ後には、間の悪いことに、アジア通貨危機(同年7月~)や金融危機(同年11月~)という悪いショックを受けて、景気が腰折れし、橋本龍太郎政権の六大構造改革も頓挫を強いられた。こうしてみると、安倍首相が凍結・先送りという最終判断を下す可能性はやはり排除できない。債券市場の疑心暗鬼は下駄を履くまで跋扈しそうだ。
補正予算の規模が国債増発を伴い大型化する懸念
第3はアベノミクスの第2の矢である機動的な財政出動、すなわち今年度補正予算の編成である。
補正予算の大義名分はTPP交渉参加の見返りとしての農業支援、および消費増税後に想定される需要の反動減のカバーという2点。国土強靭化のための公共事業の追加や法人減税・投資減税などが事実上の公約化しているようにも見える。
参院選で大勝させてもらった国民への恩返しという意味合いが込められて、補正予算の規模が国債増発を伴い大型化する可能性に注意が必要だ。安倍首相と麻生太郎財務相は過日、『国債発行の44兆円枠にはこだわらない』と述べている。
債券市場は予算規模と国債増発額が大型化した場合、日銀の国債大量購入(による需給引き締め効果)を計算に入れながらも、条件反射的に需給悪化懸念を抱くだろう。前述の中期財政計画は、補正予算(歳出の追加)を前提にしていないため、中期財政計画に対する信認も大きく低下せざるを得ない。
さて、参院選直後の22日の長期金利は0.785%と5月14日以来2カ月ぶりの水準まで低下した。与党圧勝にもかかわらず株式相場の上値が重かったことから、債券の方に買いが入ったという。
安倍政権の財政規律の低下リスクに対する警戒感は、関心が高まっている割には全く表面化していない。債券市場はそれをテールリスクと位置付け、今のところは平静を装っているようだ。しかし、今後は安倍政権が上記3つの財政関連イベントに際して醸し出す“本音の財政規律”に対し、勢い神経質になっていかざるを得ないだろう。
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