東芝の広報担当「公募」は妥当な策だったのか メディアコントロールは本当に難しい
僕はあることを思い出す。それは広報マンなら必ずケーススタディとしてチェックしている「山一證券倒産」である。
山一破綻劇の引き金を引いたのは、雑誌記事である。東洋経済オンラインとしては手前ミソになるが、『週刊東洋経済』1997年4月26日-5月3日合併号に掲載された木村秀哉記者の記事から始まった。そして、続編の取材記事が引き金となって国の支援も受けられなくなったと伝えられている。結果、山一證券は破綻した。最悪の結果といえよう。
広報界隈に詳しい人間ならそれを思い出すに違いない。今回もマスコミのコントロールを間違えると同じ道を歩むのではないかという恐怖なのだ。
そう、トラブルを抱えている企業にとってマスコミの力は怖い。寸前まで記事の中身はわからない。以前は、雑誌は印刷物しかなかったので、発売前に漏れるケースもなきにしもあらずだった。「今週の雑誌にこういう内容が載ります」と懇意にしている記者から原稿をもらって対応したことは幾度となくある。
だが、今は時代が違う。ネット全盛の時代だ。
山一證券の不正をスクープした東洋経済だって、東洋経済オンラインを運営しているように、印刷もなく、記事が毎日何本もすぐに配信される。テレビだって取材から放送までの時間が非常に短くなった。
東芝をゼロから知るには時間がかかる
メディアコントロールは非常に困難を極めている。とはいえ、手法がないワケではない。建設的なのは、今後の経営者が考える道を明らかにしたうえで、それにそったポジティブな広報戦略を立てることである。ただ、はたして、そんな材料があるのだろうか?
いずれにせよ、東芝が今、新しく広報担当者を採用して何かを行ってもらうのは非常に困難だ。というのも、東芝という会社をゼロから知るのに時間がかかる。これだけあれこれトラブルを抱えている巨大企業の全容を理解するだけでも数カ月を要するだろう。
しかもポジティブなことをやろうと思ったら、経営者の意思も知る必要性がある。しかも刻々と時間がすぎている。優秀な広報をヘッドハンティングしたとしても至難の技だろう。
もし僕だったら即座に大手広告代理店とそこに付随するPR会社に相談する。得意な部署もある。物量作戦で行うしかない。もしかすると、すでに相談しているのかもしれない。
もし、この求人募集が、東芝の広報によるマスコミの目をごまかすための陽動作戦だったら、僕は素直に白旗を上げようと思う。もし、本当は知られたくない、隠したい情報があり、それを1週間ぐらいマスコミの目から遠ざけようと思って行ったのなら、それは作戦成功かもしれない。
以前、某自動車メーカーがトラブルを起こしたとき、広報は何も知らないとマスコミの間で非難されていた。社内事情を知らなすぎると。今、東芝についてはそんなことは聞こえてこない。ということはそれなりに広報が機能している証だ。
もしかすると、今回のトラブルとは無関係で既定路線での募集だったのかもしれない。それがたまたま炎上したにすぎないのかもしれない。だったら、それはそれで、僕の取り越し苦労ということで、いつの日か笑い話にしたいものだ。
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