緊急解説「金正男暗殺」北朝鮮の狙いとは何か 気鋭の北朝鮮ウォッチャーが語る
しかし、金正恩政権下では、黄長燁クラスの大物幹部が韓国などに亡命したとの報道はまだない。最近、太永浩(テ・ヨンホ)駐英国公使が韓国に亡命したことが注目されているのは、高位級幹部の亡命者が少ない中、亡命申請直後から太永浩公使が金正恩体制を強く非難しているからである。
同じ外交官の亡命であっても、黄長燁書記が亡命を果たしたのと同じ1997年に行方をくらませ、後に米国への亡命が報じられた張承吉(チャン・スンギル)駐エジプト大使のほうが北朝鮮に与えた打撃は大きかったと考えられる。北朝鮮の主要な武器輸出先の1つであったエジプトに駐在する大使と、ほとんど経済関係のない英国に駐在していた公使、どちらが重要な情報を持っていたかは一目瞭然であろう。
太永浩公使の証言を軽視するつもりはないが、かの体制が最高領導者ひとりに権力が集中していると考える以上は、金正恩委員長を直接知る人物か否かが証言の重要性を決定づけるのである。太永浩公使がそうした位置にいたと考えることは難しい。黄長燁クラスの証言がないことが、金正恩政権内部の動きを見誤ることが多い要因になっているといえる。
謎に包まれた金正恩政権
金正日政権もブラックボックスのように言われたものだが、金正恩政権に比べれば多くの証言があったのである。本稿で触れた金正男氏、李韓永氏、成恵琅氏、黄長燁氏の証言は出版されている。彼らの証言は日本語に翻訳出版されてもおり、一般の人でも手軽に読むことができる。
金正男氏は2011年の金正日死去後、外部社会に露出することはほとんどなく、マカオや東南アジアを拠点として慎重に行動していたように思われた。一部報道によれば、3代世襲を批判するような発言をしたことを悔いていたという。
金正恩政権の内情を知っていたと考えるのも難しいため、外部への暴露などをできる立場でもなかった。それだけに殺害の目的とタイミングには謎が残る。ただ、今回の事件は、すでに韓国などに亡命した元高官らを萎縮させる効果を生むことにはなるだろう。
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