緊急解説「金正男暗殺」北朝鮮の狙いとは何か 気鋭の北朝鮮ウォッチャーが語る

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金正日死去後5年余りの北朝鮮情勢を観察すると、初代最高指導者である金日成(キム・イルソン)主席死去後の動きとパラレルにとらえうることが多いことに気づく。

死去事実の公表や葬儀の手順に始まり、死去後3カ月ほどで米朝間の外交的妥結(金日成死去後には核問題に関するジュネーブ合意、金正日死去後にも核・ミサイル問題に関する「2・29合意」が行われた)があった。さらに、主要幹部の交代が進み、一部幹部の処刑など粛清劇が伝えられたことや、軍視察を重視して軍部の掌握を進めたこと、憲法改正による組織再編と最高領導者のポスト(呼称)変更したこと、首脳外交・外遊の停止など、挙げればきりがない。

たとえば、金正恩委員長は、現在に至るまで首脳外交・外遊を行っていないが、金正日氏もまた1994年の金日成死去から6年余りにわたって首脳外交を行わなかった。それゆえ、金正恩委員長が幹部人事や軍視察といった内政固めに集中していることは、北朝鮮の軌跡からすればまったく異例とはいえないことがわかるのである。

金正日政権初期と金正恩政権初期に見られる共通性、類似性には、政権側が意図して行っている政策的なもの、すなわち相関関係、さらには因果関係が見いだせるものと、単なる偶然かもしれないものの双方が混在する。共通性の抽出は、特殊性の説明を容易にする。

例えば、金正日政権下では徐寛熙(ソ・グヮニ)農業担当書記が処刑されたと伝えられたが、金正恩政権下ではより高位にあった張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長が処刑され、その事実が即時公表された。これらの相対化は、金正恩政権下で高級幹部に対する「恐怖政治」の度合いが強まったことを示すことになる。

大物幹部の亡命阻止が目的か?

ここで注目されるべきは、金正日政権初期には起きて、現在は見られない現象である。その1つが、高位級幹部の亡命だ。先述の李韓永氏殺害は、黄長燁(ファン・ジャンヨプ)書記が北京の韓国大使館に亡命申請を行った直後の惨事であった。黄長燁書記は、金日成綜合大学総長や朝鮮労働党国際担当書記を歴任し、「主体思想」の理論体系構築に貢献したとされる。当時の権力序列で26位という超大物である。

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