そして第3の勢力はCIA(米国中央情報局)だ。トランプ氏は就任の翌日にCIA本部を訪れ、殉職した職員の数に合わせ、117個の星が刻まれた壁の前に立った。そこで就任式に参列した支援者についての子供じみた自画自賛のスピーチをしたが、殉職者には何の言及もしなかった。
CIAは、大統領選でロシアによるハッキングがトランプ氏に有利に作用したとの調査結果を公表したが、その結果にトランプ氏が疑念を示したことをしばらく忘れないだろう。
筆者はロス氏に、世界で最も偉大な民主主義国家が、権力の抑制と均衡を欠く状態に陥ったことをどう感じているか聞いた。彼はこう答えた。現在の分断状態の責任は新大統領にある。トランプ氏の在任期間は、国内で広がる反発のために『プロット・アゲンスト・アメリカ』の主人公よりも短くなるかもしれない、と。
「リンドバーグ大統領」の世界
ロス氏の著作の舞台は1940年。空の英雄だったチャールズ・リンドバーグ氏が、フランクリン・ルーズベルト氏の3選を阻んで米大統領選に勝利するという架空のストーリーを描いている。
リンドバーグ氏はひどい親ナチス、反ユダヤ主義者だった。そしてリンドバーグ時代の40年、米国の親ナチス勢力が掲げていた言葉が「米国第一」だった。この言葉は、国益よりも自己利益を優先していると批判されたユダヤ人に対する攻撃に使われた。同じスローガンが今、米国の政界で嫌悪感を持たれずに使用されていることは驚くべきことである。
現実世界では、トランプ氏が大統領就任式でこのスローガンを口にしたことを受け、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元最高幹部、デービッド・デューク氏がツイッター上で「We did it(私たちはやり遂げた)」と語って歓迎の意を示した。トランプ氏はこうした事情を把握しており、自分は過去でなく未来を見据えていると主張している。
今進んでいるゲームには二つのチームが存在する。過去の記憶に背を向けたニヒリスト(虚無主義者)と、過去の歴史を自覚する人々である。前者はKKKが歓迎の意を示した演説について「悪意などない」と考えている。一方の後者は、トランプ氏が繰り返す言葉の裏にある復讐心がどんなものかを知っている。
ロス氏が描いた小説の登場人物には恐ろしい運命が待っていた。米国人はもっと彼の小説を読み、トランプ氏の本質を知るべきだろう。
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