その調査をしていくうちに「えっ? そんなこともあるんですか?」ということが出てくる。さっきのバードパトロールの話も「えっ、鳥を撃つ人がいるんですか?」といった発見がありました。本来、ストーリーと関係ないように思っていたことが、いちばん重要な要素になることもあります。切り捨てる話もありますが、うまく入ると物語に厚みが出ますね。経験上、調査をせずに思いつきで書くのは、もったいないと思っています。
――今までの矢口作品は、「コメディ」というイメージが強かったと思いますが、この映画は笑えるところがたくさんありつつも、サバイバルという題材もあり、全体的な印象はハードな物語にも見えます。矢口監督的にも新境地といった感じだったのですが。
もちろん題材ごとに描き方が変わるので、ここから「僕はもうシリアスにしか行きません」ということはありません。きっとまた、あっけらかんとしたコメディを作るでしょうし。題材ごとにやり方を変えていくと思います。
今回はオールロケにこだわった
――この映画では、無人の街や高速道路が登場してきます。普段、なかなか観られないような景色が映し出されていますが、これはいろいろなところの協力体制がないと撮影できないのではないかと思うのですが。
そうですね。本当に各地域の方の協力なしには、絶対に撮れない映像ばかりでした。脚本を見てスタッフや俳優さんは、「このシーンは合成だろう。スタジオにグリーンバックを立てて、あとはCGで何か作ることになるだろう」といった想像をすると思います。実際、高速道路を撮る際、スタッフから「どこまでセットにしますか?」と聞かれましたが、「セットはありません。全部ロケでやります。(撮影場所を)探してください」とお願いすると、とても驚かれる。そこからスタッフの苦労の旅が始まるわけです(笑)。
――東京の街中のシーンはどのように撮影したのでしょうか。
実際、東京の街中を撮影したくても、撮影できない場所がほとんどです。ですから、物語前半の東京や川崎といった都市のシーンの多くは、仙台で撮りました。仙台はフィルムコミッションがものすごく充実していて、行動力があるんです。環八のシーンも仙台で撮りました。
――矢口監督の過去作ですと、ミニチュアなどを使って「明らかに作りものですよ」というようなチープな部分を面白がるみたいなところがあったと思うのですが、今回の作品は真逆というか、リアル志向になっているように思います。
表現の仕方は題材によりけりだと思います。「あっけらかんと笑うしかないでしょ!」ということが許される映画と、そうじゃない映画というのはあると思います。この映画にはミニチュアも、CG合成もやらないほうがいいという判断になりました。今回はこの家族の姿をドキュメンタリーのように追いかけていく話なので、観客に「本当にこうなったらどうしよう」と切迫した思いになってもらいたい。だから「なんちゃって」みたいな笑いはやるべきではないと思ったので、オールロケにこだわりました。
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